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美術館 > 刊行物 > その他 > その他(報告書など) > 2020美術館のアクセシビリティ向上推進事業報告ページ

令和2年度「美術館のアクセシビリティ向上推進事業」報告ページ

三重県立美術館は「誰もが利用しやすい環境」を整えることを活動指針の1つに定めています(「三重県立美術館のめざすこと」2018年策定)。美術館は、この「誰も」を的確に想像し、「すべての人」に向けた活動を行っているでしょうか。現実に目を向けると、この目標の達成のためには解決すべき課題がたくさんあります。
今回の事業の目的は、美術館がさまざまな人を知り、美術館を利用しづらい人との協働を経て、美術館のアクセシビリティ(利用しやすさ)を向上させること。この事業の柱となっているのは、美術館を利用しづらい人のニーズに応えると、その他の人、ひいては「すべての人」の潜在的ニーズにも応えられるという基本的な考え方です。
令和2年度は、美術館を利用しづらい人を対象としたプログラムの企画運営に加えて、利用者、未利用者(来館・利用したことがない人)からの意見収集、美術館スタッフの人材育成を行いました。
*本事業は令和2年度文化庁 地域と共働した博物館創造活動支援事業に採択された文化庁の助成事業です。

事業報告リーフレットPDF
*このPDFファイルは圧縮版のため、音声コードの読取には適しません。リーフレットの文章はこのページとほぼ同じ(このページの方が少し情報が多い)です。

事業報告

1.目の見えない/見えにくい人向けの鑑賞プログラム
対象:三重県視覚障害者支援センターの利用者 計4名
日時:2020年10月9日(金)14:00-16:00、2021年3月24日(水)13:00-15:00
会場:三重県立美術館常設展示室、美術体験室
担当:鈴村麻里子、内藤由華、髙曽由子、大﨑千野、橋本三奈、坂本龍太(いずれも三重県立美術館学芸普及課/2以降の担当者も同所属)
概要:
(1)10月のプログラム
新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、参加者を広く募集せず、三重県視覚障害者支援センターの協力を得て、同センターの利用者を対象に少人数で試行プログラムを実施した。参加者は、常設展示室でスタッフによる説明(言葉による記述)を聞いたり、作品の簡易図に凹凸を付けた触図や、触れるツールに触れたりしながら、三重県立美術館所蔵の油彩画2点を鑑賞。柳原義達記念館のブロンズ彫刻《道標・鴉》や《道標・鳩》についても、スタッフと対話しながら触覚を活用して鑑賞した。鑑賞後、美術館施設や展示に関する意見収集も行った。
参加者の声:
・[増改築工事を行っていたので]以前と入口がちがい、入館するときに迷った。
・鑑賞をしている時、部屋のなかでどの方角を向いているか分からなくなった。触れる地図のようなものが入口にあると分かりやすいかもしれない。
・活字のプリントやパネルがあれば、撮影して読み上げ機能を使うことができる。
プログラム実施風景 佐伯祐三《サンタンヌ教会》の触図を参加者が触る様子
10月9日のプログラムの実施風景 撮影:松原豊
(2)3月のプログラム
三重県視覚障害者支援センター利用者2名(10月のプログラム参加者とは異なるメンバー)にご協力いただき、コレクションの鑑賞会を実施。前回の「触れる地図のようなものがあると良い」という意見を踏まえ、展示室の触地図の試作を設置し、どのような表示・設置の方法が分かりやすいか意見をいただいた。10月のプログラムでは、あらかじめ美術館スタッフが鑑賞する絵画作品を決めていたが、3月のプログラムでは、展示作品について説明した後、どのような作品を鑑賞するか参加者と相談して決め、言葉や触図を使って鑑賞を行った。柳原記念館では触覚を使いながらブロンズ彫刻を鑑賞した。
触地図の制作・助言:道田健(プロダクトデザイナー/大阪芸術大学デザイン学科准教授)
参加者の声:
・見えない人は見える人と一緒に来館することが多いため、見える人がパッと見てすぐ触れるものだと分かることが重要。
・[触地図は]記号[凡例]が多すぎると、覚えるのが大変。
・[絵画鑑賞について]触図だけでは分かりづらく、説明がある方が分かりやすい。
3月の鑑賞プログラムの様子。参加者の1人が柳原義達《犬の唄》に手を伸ばしている。
3月24日のプログラムの実施風景 撮影:松原豊
※プログラム参加者のみ触察を行いました。
 
2.赤ちゃんのためのオンライン鑑賞会
対象:0-2歳児と保護者 計13組
日時:2021年3月18日(木)、3月21日(日)いずれも10:00-11:00
講師:冨田めぐみ(NPO法人 赤ちゃんからのアートフレンドシップ協会 代表理事)
企画協力:NPO法人 赤ちゃんからのアートフレンドシップ協会
担当:鈴村麻里子、髙曽由子、内藤由華
概要:
美術館を利用しづらい層である乳幼児とその家族向けのオンラインプログラム。乳幼児向けの鑑賞プログラムの企画運営は当館では実績がないため、経験豊富な冨田めぐみ氏に企画や助言、進行を依頼した。2021年1-3月に三重県立美術館常設展示室で開催していた「コレクション名品選」より油彩画8点を選び、講師からのメッセージと作品画像を含む動画コンテンツを事前に参加者と共有。動画を見た乳幼児の反応を保護者が美術館にメールでしらせ、それらに基づいて講師が当日のプログラムを構成した。当日は講師が保護者や学芸員と対話し、乳幼児に話しかけたり画像を見せたりしながら、オンライン会議システムZoomを使用して鑑賞会を実施した。参加者からは、鑑賞会後、家族で美術館を訪れたという声も聞かれた。
関連ページ:
鑑賞会の案内ページ
事前動画のページ ※動画共有プラットフォームYouTubeのページが開きます
 
3.多様な作品解説の展開
時期:2020年度「美術館のコレクション(常設展示)」Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期で実施
担当:鈴村麻里子、髙曽由子、原舞子(解説は全学芸員が執筆)
概要:コロナ禍により展示室内での活発な会話が制限され、美術館初心者の鑑賞学習を支援する機会が失われていたことから、作品解説の書き方や掲出方法を再検討し多様な展開を試みた。2020年7月以降の常設展示の一部では、①中学生向けの短い解説文を展示室のパネルとウェブサイトに掲載②長い解説文をウェブサイトに掲載(希望者にはリーフレットを配布)③パネル拡大印刷を希望者に配布した。さらに、1月以降は三重県立四日市高等学校との連携事業の成果として高校生が執筆したコメントも掲示した(一部を展示室に掲示、全文はウェブサイトに掲載)。
年度末には、所蔵品5作品の音声ガイドを2種類ずつ作成・公開した。1種類は一般的な音声ガイド、もう1種類は主に目の見えにくい人を対象に想定し、作品を言葉で記述したガイド。
関連ページ:
常設Ⅱ期【短い解説】【長い解説
常設Ⅲ期【短い解説】【長い解説
常設Ⅳ期【短い解説】【長い解説】【高校生のコメント】【連携事業概要
音声ガイドのページ

4.ソーシャル・ガイドの開発
時期:2020年10月-2021年3月
担当:鈴村麻里子、村上敬、大﨑千野
コミュニケーションを苦手とし、初めての場所には不安を感じやすい発達障がいのある人(主に自閉症スペクトラム障がいのある人)のためのソーシャル・ガイド(コミュニケーションの習慣や暗黙の了解を平易な文章や写真・イラストで説明したもの)を、三重県自閉症協会の全面的な協力を得て開発した。三重県立美術館が作成したガイド案に対し、自閉症協会の役員・理事がさまざまな当事者の反応を考慮しながら、内容改善のための助言を行った。推敲の過程では、表記・図示の方法から、写真や言葉の選び方にいたるまで、細かく検討が行われた。発達障がいのある人に限らず、美術館に足を運んだことのない人の来館を支援できるオンラインリソースとして、2021年3月にPDF形式のファイルをウェブサイトで公開。
ソーシャル・ガイドのページ

5.ボランティア向け研修(試行プログラムのみ)
対象:三重県立美術館ボランティア「欅の会」団体案内グループ、チーフ会メンバー 13名
日時:2020年12月3日(木)13:45-14:30
担当:鈴村麻里子、内藤由華
概要:三重県立美術館ボランティア「欅の会」の団体案内グループが担当する会員向け勉強会に先立って、運営担当の会員を対象とした試行プログラムを実施。感染拡大防止の観点からグループワークは行わず、学芸員が障がいのある人の美術館利用についてレクチャーを行った。レクチャー後、全会員対象の勉強会に向けて、内容改善のために意見を交換。その後感染状況が悪化したため、当初予定されていた全会員向け勉強会は延期となった。

6.利用者・未利用者の調査
時期:年間を通して実施
担当:鈴村麻里子、大﨑千野、坂本龍太
既存の来館者アンケートの内容を館内で再検討して改訂を行い、7月から来館者向けオンラインアンケートを公開(9月から消毒液を用意して紙アンケートも設置再開)。
また、来館者を対象としたアンケート調査では、回答者が一部の来館者に限られることから、2021年2月には三重県の「キッズ・モニター」制度を活用して、未利用者も含む小学生から高校生までのキッズ・モニターを対象に、美術や美術館の認知度、3の中学生向け解説文の難易度について調査を実施した。
キッズ・モニターアンケートの結果 ※三重県広聴広報課のページ

実行委員会構成

 三重県立美術館(中核館)
 公益財団法人三重県文化振興事業団
 三重県子ども・福祉部障がい福祉課
 三重県立美術館ボランティア「欅の会」

謝辞

この事業を実施するにあたり多大なご協力をいただいた関係諸機関、関係者の方々、およびここにお名前を記すことを控えさせていただいた方々に深く感謝の意を表します。(五十音順、敬称略)
三重県視覚障害者支援センター(職員・利用者の皆様) 三重県自閉症協会 三重県立四日市高等学校
石﨑三佳子 小田久美子 﨑田明香 田代亜矢子 冨田めぐみ 中村千恵 広瀬浩二郎 藤川悠 道田健

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