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美術館 > 展覧会のご案内 > 常設展(美術館のコレクション) > 2020 > 美術館のコレクション2020年度第4期第3室解説(短)

美術館のコレクション(2020年度常設展示第4期第3室)短い解説文

2021年1月5日(火)―2021年3月30日(火)
このページには常設展示室第3室「コレクション名品選」の出品作品解説(展示室にも掲出している短い解説文)を掲載しています。
長い解説文はこちら


バルトロメ・エステバン・ムリーリョ《アレクサンドリアの聖カタリナ
ひざをつき、手を広げて天を見上げる目鼻立ちのくっきりした若い女性が描かれています。古代ローマ時代のキリスト教の聖女カタリナです。頭にのせた王冠は彼女が王女であることを示しています。キリスト教への信仰を固く守ったためローマ皇帝の怒りを買い、首を切られて殺されてしまいました。足もとの剣がその事実を物語っています。一方、空からは天使がおりてきて、命をかけてキリスト教を信じたカタリナの清らかな心をたたえています。
 
作者不詳《聖ロクス
聖ロクスはフランス生まれのキリスト教の聖人。感染症「ペスト」から人々を救ううちに、ロクス自身も病に感染してしまいます。森でたおれていた彼を助けたのは、1匹の犬でした。この作品にも画面の右側にパンをくわえた犬が描かれています。天使がさわっているロクスの右足には、感染のしるしであるきずが見えます。聖ロクスは感染症から人々を守る聖人として、ペストが流行した時には広く信仰を集めました。

マルク・シャガール《
抱き合った男女が宙に浮かび、二人の上に花咲く枝が生い茂っています。背景には、シャガールのふるさとロシアのロバや、シャガールが生活したパリの街(エッフェル塔など)、宙を舞う人、花束などが非現実的な配置で描かれています。画面の下の方には川が流れ、船に乗って川を渡る人の姿も見えます。緑に近い青から紫に近い青まで、さまざまな調子の絵具が塗り重ねられていますが、背景はにごりのない、透明感あふれる青色です。

アントニオ・フォンタネージ《沼の落日
夕暮れ時の沼のほとりを描いた作品。沼にとめられた小舟、木々や船頭、二人の人物は、夕日を受けて黒い影で描かれます。落ちつつある夕日を受けて、雲や水面が赤や黄色に輝き、ドラマチックな印象です。
イタリア人である画家は、日本初の美術学校で油絵を教えるため、1876年より2年間東京に住みました。この作品の右下には、サインとともに「Tokio(東京)」の文字があり、東京にいたときに描かれたことがわかります。
  
久米桂一郎《秋景下図
山の中の川辺を描いた作品。画面左半ばから右下にかけて小川が流れ、青空には白い月が浮かびます。人の姿は描かれませんが、川にかかる小さな橋からは、近くで暮らす人の気配が感じられます。枯れ草は一本一本丁寧に描かれ、画家が目の前の物をしっかりと観察し、絵にうつしたことがわかります。のちに画家は、この絵をもとにひとまわり大きな作品(久米美術館が所蔵する《秋景》)を描きました。
  
鹿子木孟郎《津の停車場(春子)
着物を着た女性のうしろ姿が描かれています。女性は橋の上に立ち、地面にのびた線路や遠くの景色を見ています。女性や橋の手すり、建物には濃い色を塗っていますが、地面や空はほとんど絵具を塗っていません。停車場とは駅の古い言い方です。いまの津駅とは、線路やまわりの建物が違います。画家はこの絵を描いたころに結婚して、津の学校で絵を教えていました。この絵のことは、妻の名前と同じ、春子と呼んで大切にしていました。

岸田劉生《麦二三寸
画面いっぱいに広がる空と麦畑。わき道には、赤い和服を着た小さな女の子が立っています。枯れた草や土の色は、和服の色を鮮やかにひきたてています。麦畑には、青い芽が生え始め、春の訪れを感じさせます。この麦畑は、画家の自宅の前から見えた風景です。画家は、この風景を気に入り、季節を変えて、くり返し描きました。小さな女の子は、画家の娘です。新しい麦の芽といっしょに娘を描き、娘の成長を願っているかのようです。

鈴木金平《静物
洋風のテーブルに置かれたふたつの陶器。鉢にはザクロなどの果物が盛られています。花瓶に入れた赤い花は一見しなびているように見えますが葉からは新鮮さがうかがえます。白い布は果物でしっかり押さえられ安定しているように見えます。
鈴木は、絵をかざる額縁にもこだわりを持っていました。この額縁の裏にはフランス語の文字が見られることから、ヨーロッパで作られた額縁を日本で見て気に入り、この絵に付けたと思われます。
  
古賀春江《煙火
「煙火」は「はなび」と読み、花火のことを指します。赤みがかった夜の空に、波しぶきのような形をした花火が打ち上げられています。やみのなかからはヨットやイルミネーションでかがやく船がぼんやりと浮かび上がり、画面の下の方には赤提灯や洋風の飾り窓が見えます。あかりがともり、花火が打ち上げられていますが、人は一人も描かれていません。船や建物が不思議な位置関係でただよっている、静かな、まるで夢のなかのような光景です。
 
福沢一郎《劇の一幕(コメディー・フランセーズ)
フランスの代表的な劇団「コメディー・フランセーズ」の劇の様子を描いた作品。赤い幕がかかった舞台で、男女が劇を演じています。中央のマントを身につけた男性のほか、3人の役者や井戸、木などの大道具が、大まかに描かれます。この作品は画家がフランスに留学し、絵を描き始めたばかりの時に描かれました。初めて目にしたフランス文化への感動や、絵を描く楽しみが感じられる作品です。
 
藤田嗣治《自画像
丸眼鏡をかけてこちらを見るおかっぱ頭の人物。肩ごしには猫が顔をのぞかせています。彼らの周りには作品が置かれ、ここが絵を描くアトリエ(画室)であることが分かります。この人物は作者の藤田嗣治自身。細い線を引くための面相筆を右手に持ち、すずりや墨をテーブルの上に置いています。画面をおおう温かい白は、彼にしか出せないといわれた特別な色。外国で活躍した藤田が、自分はどのような画家であるか分かりやすく表した作品です。

佐伯祐三《サンタンヌ教会
フランス・パリの通りの左右に白い壁の建物が並び、つきあたりにはサンタンヌ教会のドーム(円屋根)が大きく描かれています。実際はまっすぐな道ですが、この絵では曲がりくねった坂道のよう。右上には煙突のある屋根が描かれ、1本の煙突からは煙がたなびいています。寒そうな白黒の冬景色のなかで目を引くのは、ところどころに塗られたレンガ色。画面上にはいきおいよく絵具をけずりとったあとや、絵具を投げつけたようなあとも見えます。
 
藤島武二《大王岬に打ち寄せる怒濤
藤島武二は理想の日の出の景色を描くため、10年にわたって各地で取材をつづけました。三重県志摩市の大王崎を描いたこの作品も、その途中で制作されたものです。遠くの方の波はおだやかで、水平線の上にはヨットが浮かんでいます。一方、手前のきざきざした海岸には大きな波があたっていきおいよく砕け散っています。画面がでこぼこしていることから、画家が強い力で絵具を何度も塗り重ねたことが分かります。

森芳雄《大根など
少し葉が残った大根と変色した輪切りの大根、買い物かごが並んでいます。同じ場所に置かれているようにみえますが、影が伸びているのは輪切りの大根のみ。濃く塗られた影が、しなびた大根の存在感を増しています。この絵が描かれたのは1942年、戦争がはじまった次の年です。敵対する国の文字は使えず、平がなで「よ」とサインされています。戦いとかけ離れた日常に目を向けることが難しい時代に、画家は強い気持ちで特別でないものを描きました。


最終更新:2020年1月4日
 
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