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美術館 > その他 > その他 > 2021年度 美術館のアクセシビリティ向上推進事業 報告書オンライン版 2(2)アクセス展ディスプレイ

2021年 美術館のアクセシビリティ向上推進事業 報告書オンライン版 
2.「美術にアクセス!――多感覚鑑賞のすすめ」展

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(2)ディスプレイ

会場ディスプレイについては、地域の当事者の助言に加え、他館のアクセシブルな展示の先行事例を参照した。最も影響を受けたのは、國立台湾美術館(台中市)で開催されていた「家・屋」展(2019-20年)。同展の会場風景はGoogle Arts & Cultureでも見ることができる。コロナ禍下のさわれる作品や触図の展示方法については、愛媛県美術館の「みる冒険」展(2021年)やKYOTOGRAPHIE(京都国際写真祭)における「マリー・リエス 二つの世界を繋ぐ橋の物語」展(2020年、アトリエみつしま Sawa-Tadori)等から多くの示唆を得ている。なお、作品数点をのぞくすべての展示物は来館者も撮影可能であったため、来館者が撮影した会場風景写真もインターネットやSNS上で閲覧できる。

以下、会場に設置したディスプレイや鑑賞支援教材について項目別に紹介する。特記のない限り「来館者より」は来館者アンケートからの、「監視スタッフより」はスタッフアンケートからの抜粋。

<ページ内目次>

 

触地図

デザイン・制作:道田健(大阪芸術大学准教授/プロダクトデザイナー)

2020年度に、三重県視覚障害者支援センター利用者の目の見えない/見えにくい人を対象に美術館での鑑賞会を2回実施した。1回目には、参加者が途中で方角が分からなくなるハプニングが発生。「さわれる地図のようなものがあっても良いかもしれない」という助言に基づき、2回目の鑑賞会では触地図の試作品を展示室入口に設置し、デザイナー同席のもと、ユーザーテストを行った。この時はすべての展示室の情報を1枚の地図に収めたが、一度に把握できる情報量には限界がある。「部屋ごとに触地図を置いては」という参加者からの提案には、スタッフ一同はっとさせられた。

結果的に、アクセス展の会場には1番目の展示室に大きな触地図を1枚、2番目以降の展示室には各部屋の触地図を1枚ずつ(計4枚)設置。「目の見えない人と一緒に来館した目の見える人が、すぐにさわれる地図だと気づけることも重要」、「落ち着いてゆっくりさわれる場所に地図が設置してあるとさわりやすい」という意見も踏まえてデザインや設置場所を検討した。

目の見えない/見えにくい人と一緒に来館した、複数の晴眼者(=目の見える人)より

「案内がしやすかった。」

監視スタッフより

「次の展示の時は設置されますか?と質問されました。」

参考

三重県立美術館「『美術館のアクセシビリティ向上推進事業』2020年度報告ページ」
https://www.bunka.pref.mie.lg.jp/art-museum/000247807.htm

入口の触地図の写真 大きい4部屋分の地図

第4章の触地図 1部屋分の地図

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「三重県立美術館ソーシャル・ガイド」

制作協力:三重県自閉症協会

はじめての場所に足を運ぶことや、人とのコミュニケーションに不安を覚えやすい自閉スペクトラム症の人を主な対象に想定し、三重県自閉症協会の協力を得て2020年度に開発した来館支援教材。当館のウェブサイトで公開している。ページは【こちら】。今回の展示では、当初、台の上にソーシャル・ガイドを綴じたファイル(点字シール貼付)、および自閉症協会の方々からのアドバイスが書き込まれた、開発のプロセスが分かる校正紙のファイルを置いていた。会期序盤にファイルを手に取る人の少なさが気になったため、より多くの人にガイドを見てもらえるよう、会期途中からモニターを設置し、内容をスライドショーで提示した。

来館者より

「私自身が自閉症スペクトラム当事者であり、試みの意味を深く考えさせられた。」(ソーシャル・ガイドを含む、展示全体に関する感想)
「バリアフリーガイドの作り方まで展示されていたのが面白かった。」

参考

鈴村麻里子「来館しやすいミュージアムへ――『三重県立美術館ソーシャル・ガイド』の開発過程」『HILL WIND(三重県立美術館ニュース)』49号、2021年7月、3-4頁

ソーシャル・ガイドの展示コーナー モニターが台の上に設置されている
右手がソーシャル・ガイドの展示コーナー

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鑑賞支援教材「あいうえおブロック」と「キューブパズル」

デザイン・制作:楠木一徳(KUSUKI DESIGN)
協力:三重県立城山特別支援学校高等部

2017年度に城山特別支援学校高等部の生徒6名や先生の協力を得て、プロダクトデザイナーの楠木氏と美術館が協働して開発した所蔵品の鑑賞支援教材。「あいうえおブロック」がバルトロメ・エステバン・ムリーリョアレクサンドリアの聖カタリナ》に、「キューブパズル」が佐伯祐三サンタンヌ教会》にそれぞれ対応している。

「あいうえおブロック」は、表にひらがなや記号が、裏にその文字から始まる鑑賞のヒントや生徒のコメント等が書かれたブロック。表面を上にして言葉や文を作って他の来館者と共有することもできる。「キューブパズル」は《サンタンヌ教会》の複製図版を12ピースに分割したパズル。キューブ状のピースを回すと、他の面に掲載された生徒のコメント等を読むことができる。

2017年度の開発当時は、参加生徒が全員晴眼者だったということもあり点訳はしていなかったが、今回アクセス展で再展示するにあたり、いくつかのブロックやキューブには点字シールを貼った。また、2018年の展示時には来館者がコメントを書き込んだ付箋を順次キューブに貼っていたが、今回は感染防止のため、書き込みは中止した。

来館者より

「『あいうえおブロック』や『キューブパズル』などの体験によって、絵画を楽しんで鑑賞することができた。」

監視スタッフより

「熱心に、楽しそうに、会話しながら、されていました。」
「キューブパズルは、大人も子供も夢中になる方が多かったです。」
「元々のフセンに何か書いてとかいうのがあったら楽しめたのかな」

参考

アートでつなぐ・新しい鑑賞活動創造事業実行委員会「アートでつなぐ・新しい鑑賞活動創造事業記録集」2018年(PDF版)
https://www.bunka.pref.mie.lg.jp/common/content/000782309.pdf

あいうえおブロックの写真 ひらがな一文字が書かれた丸い木のブロックがテーブルに並んでいる
「あいうえおブロック」

キューブパズルの写真 サンタンヌ教会の画像が12個のキューブに分割されている
「キューブパズル」

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音声再生装置

会場には入口も含めて、水色の音声ボックスを計8台設置した。この装置の上の壁に掲示された解説の原稿に少し変更を加えて読み上げ、館内で録音・編集を行った。一人で来場した目の見えない/見えにくい人や、印刷された文字を読みづらい学習障がいのある人等の利用を想定した、解説の音訳である。内容は配布リーフレットの掲載文とも重複するが、会場パネルの方がより詳しい説明となっている。

再生方法はさわる方法とさわらない方法の二通り。さわる方法については、目の見えない人も再生や停止の操作がしやすいシンプルな動作を追及。ボックスの中にはmp3形式の音声ファイルを記憶させた簡易的な基盤があり、スピーカーとボックス天板のスイッチにコードがつながっている。今回の展示ではスイッチに指を触れると再生/停止の信号が伝わるように感度を調整した。

コロナ禍であるため、非接触の再生方法も担保した。スイッチの天板には二次元コードが掲示されており、来場者自身のデバイスを使って読み取ると、ウェブサイト上で音声の再生、停止を行える仕組み。使い捨てイヤホンも用意したが、イヤホンジャック端子のない一部のデバイスでは使用できなかった。なお、この展覧会ではデバイスの貸出は行っていない。

来館者より

「解説を聞かせるという試みは大賛成。[略]普通の展覧会でも音による解説がほしい。」
「欲を言えば、音声ガイダンスを全ての人がイヤホン対応だったら嬉しかったかも。他の方がガイダンスを流している間は作品鑑賞が全くできないので。(集中できなくなってしまう。)」(感覚過敏や自閉スペクトラム症、注意欠陥・多動症の傾向あり、と書いてくださった方)

監視スタッフより

「誰かが押して始まった解説を聞きながら、何人かの人は鑑賞していました。」
「最初の解説は音声で聞かれる人が多いですが、後の方は読んで済まされる方が多かったです。」

参考

三重県立美術館「『美術にアクセス!』展音声解説00 ごあいさつ」(音声解説の例)
https://www.bunka.pref.mie.lg.jp/art-museum/000250979.htm

天板が白、側面が水色の箱状の音声再生装置 天板の上にはスピーカーやスイッチ、QRコードが載っている

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立体コピー等

鑑賞支援教材が数多く開発されている所蔵品《アレクサンドリアの聖カタリナ》と《サンタンヌ教会》の前に斜台を設置し、2003年度に盲学校の教員の協力を得て作成した、カプセルペーパー(感熱性発泡紙)の立体コピー2枚、作品の複製図版、墨字(=点字に対し、印刷された文字)の解説文、その点訳を横並びに配置。その右手には先述の音声再生装置と同じ仕組みを使って、2020年度に作成したオーディオ・ガイドの再生装置を付けた。制作背景や作家にも言及した一般的な作品解説と、目の見えない/見えにくい人の利用を想定した「言葉による記述」を選んで再生できるようにし、台の上に原稿も貼付した。

会期序盤でまず気になったのは、立体コピーが多くの来館者に凹凸のある図として認識されていないのでは、ということ。教材の用途についても来場者に知って欲しいと思い、会期途中で各教材について解説したパネルを斜台の上に追加してみた。その後、他館の学芸員からアドバイスを受け、教材の解説は斜台から撤去し「やさしく さわってみてください」というシンプルなサインに差し替えた。この2回目の改善によって、ようやく来場者は立体コピーに自ら触れて凹凸に気が付きやすくなったと思われる。なお、会期中にも展示改善が可能となるよう、会場造作にはできるだけ可逆性のある材料や道具を用いた。

監視スタッフより

「[立体コピーは]おーすごい!と言いながらさわっている人や、どうやって作成したのですかと質問している人もいました。」
「[立体コピーは]さわられる方は少なかったように思いますが、さわられた方は感動しておられました。」

油彩画の手前に斜台を設置し、その上に立体コピーや解説の点訳を設置している様子

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解説パネル

ソーシャル・ガイドの本文はHG丸ゴシックフォントを採用しているが、アクセス展の会場のパネルやサイン類については、視覚過敏に加え、学習障がい等、さまざまな読みづらさがあることを考慮しUDデジタル教科書体を使用した。文字サイズは最小が24ポイント。できるだけ分かりやすい表現を試みたが、説明過多という指摘も多く、視覚的な強弱を付けたり、情報を取捨選択したりする必要を痛感。会期中に、いくつかのパネルはリライトして情報量を減らした。

来館者より

「解説パネルに記載されている内容はとても分かりやすかったです。一方で、字が小さかったり、ストーリー別に色を変えるなど工夫があると展示の目的が分かりやすくよいと[思いました。]」
「わかりやすいが、字数が多く目がすべった。」
「情報量が多すぎて逆に疲れました…。もっと差別化やフォント、レイアウト、配色、コンセプトに即した簡潔化した文章のみでもよいのかも。」
「館内の照明の明るさに限度があるため、解説パネルの文字がもう少し大きいとより読みやすいと思いました。」

監視スタッフより

「説明のボード、分かり易い言葉で、大きな文字にした方が、読んで頂ける様に思います。」

参考

個別の作品解説については、短くて平易な解説のみを展示室に掲出。長い解説はウェブサイトに掲載した。
三重県立美術館「『美術にアクセス!』展 長い解説文」
https://www.bunka.pref.mie.lg.jp/art-museum/000251113.htm

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点字シール

展示風景にはほとんど写っていないが、今回の展示は「全盲の方が一人で来館しても鑑賞しやすい環境」を目指しており、さわれる教材や作品を設置した台には点字のキャプションも付けていた。キャプションの作成には点字ラベラーを使用。点訳に不安のある単語や文章は、貼り付ける前に視覚障害者支援センターの方にもチェックをお願いした。

担当者より

「たくさんの来館者の方に展覧会を楽しんでいただきたいという気持ちで、点字シールの作成をしました。初めて点字について調べ、様々なルールがあることに驚きました。シール作成中は点字が合っているか何度も確認をし、ツールに貼る時は上下逆にならないよう気をつけました。展覧会が始まって、来館者の方が点字を通して能動的に参加されている姿を目にし、とても嬉しかったです。」(内藤由華/担当:教育普及)

展示台の上に貼られた透明の点字シール

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「さわる」ための彫刻展示

本展第3章のタイトルは「彫刻にさわる」。当館の所蔵品のなかから、触察と固定が可能な彫刻作品を当館学芸員が選び、「さわる」ための展示台を新調して空間を構成した。今回の展示では、目の見えない/見えにくい人に限らず、すべての来館者が希望すれば作品にさわれるようにした。触察の前には、監視スタッフがさわり方のガイダンスを行い、来場者は再度ウェットティッシュで手指消毒し、時計やアクセサリーを外し、荷物をロッカーに入れた。監視スタッフのアンケート回答を平均すると、希望して作品にさわった人は全体の6割強程度だという。

力の調節が難しい来館者の触察に備え、ボルトや固定具を使って、作品と展示台の天板を固定。さらに展示台は、アンカーボルトを使って床に固定した。晴眼者が視覚を遮りながら触察する体験もできるよう、1点には天板の上にコの字型カバーを付けた。展示したブロンズ作品は、当館の彫刻コレクションを代表する作家である柳原義達の作品5点と、佐藤忠良舟越保武の作品各1点。柳原の《座る女》《しゃがむ女》は、サイズが大きいため、さわれる日時を限定し、学芸普及課スタッフの立会のもとで触察ができるようにした(さわるプログラムについては【こちら】のページを参照)。

なお、個々の展示台には墨字のキャプションは付けず、点字キャプションのみを貼った。墨字の作品情報は部屋の出口付近にまとめて掲示。会場では、視覚に障がいのある人に限らず、発達障がいのある人からも、彫刻にさわれて良かったという感想をいただいた。一方、とりわけ人物彫刻を人前で「さわる」ことに対して、羞恥や罪悪感、気まずさを覚えたという意見もあった。

来館者より *さわれる彫刻のコーナーが印象に残った、という回答多数

「ブロンズ像のさわり方がむずかしかった。」
「ブロンズ像を実際に触り、その冷やかさが意外(考えたこともなく)。戸惑いました。」
「彫刻を触われたので表情などがわかりやすかった。」(感覚過敏や自閉スペクトラム症、注意欠陥・多動症の傾向がある方)
「さわれる彫刻の部屋で、誰の何という作品かわからずに見て回り、それでも男の人の彫像には引き込まれるものを感じて、あとから壁を見て佐藤忠良の「群馬の人」だと知りました。個々にパネルで示されていないのがかえってよかった。」
「作品のそれぞれに[墨字の]キャプションを付けてほしい。」

担当者より

「最も心配したのは、重いブロンズ彫刻が倒れて来館者がケガをすることです。また、彫刻が揺れて、作品の接地面、固定部分が摩耗することも恐れました。結果的には杞憂でしたが、動かない固定具を検討し、会期中の点検を重ね、心配は尽きませんでした。鑑賞者の姿勢を工夫して(着席してなど)鑑賞するようにすれば、彫刻に力がかかりにくい状態を作れたかもと思い、今後はそちらも検討してみたいと思っています。」(髙曽由子/専門:日本近代美術)

「立体彫刻を触って鑑賞する固定方法を検討するにあたり、作品の保全と転倒防止の両観点を重視した展示方法について話し合いを重ねました。展示台と床を固定し、更に作品と展示台を固定する案で決まりましたが、更なる課題は作品内部に固定具がついていない作品をどのように展示台に固定するかということでした。作品に傷がつかない材質でしっかり留まる固定具を選定し、設置時にも微調整しながら慎重に行いました。定期的に固定状態の点検を行うことで展示期中の安全を確認し、問題なく展覧会を終えることができほっとしました。当館所蔵の作品は色や形など同じ彫刻はないため、作品に向き合う大切さを改めて考える良い機会となりました。」(橋本三奈/担当:保存修復)

低い彫刻台に展示されたブロンズ彫刻

「彫刻にさわる」コーナーの全景

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マット、テープ

さわれるものとさわれないものを区別するサインを、視覚と触覚で感知できる分かりやすい方法を検討し、今回の展示ではショッキングピンクの視覚障がい者歩行誘導ソフトマットと、ざらざらした質感の白いすべり止めテープを活用。一人で来館した全盲の人や子ども、知的障がいのある人にも、さわる/さわれないが区別しやすい環境づくりを目指した。

さわれたり、手に取ったりできる教材や作品が置いてある台の手前にはピンクのマットを設置。このマットは、通常、車椅子やベビーカーの利用者も通行に苦労しない誘導ツールとして、線状に敷設するものだが、今回の展示ではあくまで目/足印として点状に使用。一方、白いテープはさわれない作品を囲むように貼付。ガラスやアクリルで保護されている作品については、壁やケースの周りにテープを貼り、表面保護がない作品の前にはテープに加え、金属やゴムの結界を設置した。

晴眼者からは概ね「分かりやすい」と好評だったが、一部の弱視の方にはグレーの床とピンクのマットのコントラストが低く、識別しにくいという指摘も受けた。また、全盲の方からは、もう少し幅広で厚みがあるものの上にテープを貼ってはどうか、という助言も受けた。

さわれるツールを設置した台の前にピンクのマットが敷かれている様子

壁面に展示した絵画の前に白いテープを貼っている様子
第2章の絵画は通常より15cm低く展示


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音訳、点訳、その他の情報保障ツール

会場で配布した展覧会チラシと2種類のリーフレットの情報保障のために、できる限り多くの選択肢を用意した。音訳CDと点訳は視覚障害者支援センターが作成。印刷物には音声コードも掲載し、アプリを使ってテクストを読むこともできるようにした。当館のウェブサイトには各印刷物のオンライン版ページも設けている。会場内の小さい解説パネルは、希望者に白黒反転の拡大印刷も配布した。点訳音訳や拡大コピーは、会期前半に配布数があまり伸びなかったため、視覚障害者支援センターの広報誌(7月号)でも、テクストを読むためのさまざまな選択肢を紹介。なお、会場配布リーフレットには、表紙と裏表紙に厚盛クリアニス印刷による触図と点字を掲載した。

参考

三重県立美術館「『美術にアクセス!――多感覚鑑賞のすすめ』展 会場配布リーフレット オンライン版」
https://www.bunka.pref.mie.lg.jp/art-museum/000249533.htm
鈴村麻里子「県立美術館に来てください」『はなしょうぶ(三重県視覚障害者支援センター広報誌)』196号、2021年7月
https://www.zc.ztv.ne.jp/mieten/p/hana196/04.html

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感染拡大防止ツール

アクセス展が開幕した6月はコロナ第四波がピークアウトして間もない頃であり、当館のボランティア「欅の会」も活動を休止していた。館内でも話し合いの場が持たれ、やはり誰もがアクセスできる展示を目指すのであれば、触察機会の担保は必要という結論に至り、感染拡大防止のためのガイドラインを作成した。来館者対応も接触を伴うため、監視受付スタッフは会場内でフェイスガードや手袋を使用した。

当館は出入口にも検温や消毒コーナーを設けていたが、アクセス展の来場者には入場前に再度スタッフの前で消毒や検温を依頼した。また、多くのさわれる教材や触地図はアルコール消毒ができる素材だったが、作品や木・紙でできた一部の教材はアルコール消毒が不可能である。苦肉の策として、会場入口や第3章「彫刻にさわる」の受付にはゴム手袋や白手袋も設置し、来館者が希望に応じて手に取れるようにした。会場出口と、手袋の取替を行う第3章受付には、センサー式ゴミ箱を設置し、ウェットティッシュや手袋を回収した。結果、ゴミの量は著しく増加した。

また、体調に不安を抱える人や、遠方居住者(三重県のガイドラインに則り、美術館のウェブサイトには特定地域からの「ご来館はお控えください」の文言も掲載)からは来館をためらう声も聞かれた。会期中には特別支援学校の来館も2件あったが、現状では自身の勤務校は来館が難しいと言う教員もいた。

来館者より

「手袋の種類があったので、苦手な肌ざわりでないものを選べた。」(感覚過敏や自閉スペクトラム症、注意欠陥・多動症の傾向がある方)

監視スタッフより

「手袋も用意してありますという案内で、安心感を持っていただけたような気がしました。」
「彫刻にさわることが出来ると伝えると、すぐにお断りされる人もみえました。[略]コロナ禍でなければよかったのになぁと思いました。」

参考

鈴村麻里子「コロナ禍とアクセシビリティ――三重県立美術館の場合」ICOM日本委員会オンラインジャーナル、2021年8月20日
https://icomjapan.org/journal/2021/08/20/p-2535/

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このページは紙の事業報告書の5-8ページに相当します。一部の項目と写真を追加しています。
写真撮影はすべて松原豊による。
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