「美術にアクセス!」展音声解説22 聞こえない人と見えない人 約2分
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【以下、読み上げ原稿です。】
聞こえない人と見えない人
ここでは、当館が所蔵する耳の聞こえない美術家による絵画と、目の見えない人を表した彫刻を紹介します。
画家の松本竣介は旧制中学校(現在の高等学校)在学時に、聴覚を失いました。今回展示する作品のうち1点は人々が歩く東京の街角をとらえた素描、もう1点は東京駅の駅舎を描いた絵画です。スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤもまた、40代の頃に聴覚を失った画家です。ここで一部を展示している連作の『戦争の惨禍』と『妄』は、いずれもゴヤの耳が聞こえなくなってから制作された作品です。
おそらくこの2人の作家は、現代の基準でいえば、「障がいのある人」と言えるでしょう。いずれも美術の歴史を語るうえで欠かすことのできない画家ですが、美術館で作品の解説をする際、作家の「聞こえない」特性がことさらに強調されたり、考慮されたりする機会はあまりないかもしれません。
橋本平八の木彫作品《弱法師》は、能の演目「弱法師」に登場する目の見えない人物、俊徳丸を表したものです。少し前かがみになった俊徳丸は右手に杖をもち、左手を持ち上げています。季節は春。梅の花の香りを感じた俊徳丸の袖に、花びらが散りかかるという印象的なシーンがある演目です。