4月開催の企画展 受贈記念 榊莫山 詩書画が紡ぐ風雅の世界
2012年4月7日(土)~5月20日(日)
榊莫山(1926-2010)さんといえば、1980年代から90年代にかけてテレビや雑誌にたびたび登場した姿を真っ先に思い出される方も多いかもしれません。しかし、それは莫山さんのごく限られた一面です。莫山さんには、書家、画家、書史研究家、文筆家、風蘭愛好家など多くの顔がありました。
伊賀の旧家に生まれた莫山さんは、幼少期から絵画や書に関心が深かったといいます。そして、終戦後の奈良で書家の辻本史邑(1895-1957)と出会ったことで本格的に書の道に進みます。昭和20年代後半から莫山さんは、公募展で受賞を重ねて注目を集め、将来を嘱望されました。
しかし、昭和30年頃に莫山さんは所属していた書の団体を全て退会し、一人で作家活動を開始します。美学者や文学者、哲学者など多くの先学に教えを乞いながら研鑽を重ねた莫山さんはその成果を個展に発表しました。そして、「土」、「女」、「樹」などの漢字一文字を大胆に扱った作品を経て、1970年代後半から自身の詩・書・画をまじえた作品を発表するようになります。これら詩書画一体の作品によって、莫山さんは現代の文人と称されて、おおらかでユーモラスな風貌とともに多くの人々から支持されました。莫山さんの活動は、中国や日本の書史研究や篆刻などにも及び、多くの芸術家たちと交流を重ねる中で独自の芸術世界を築きました。
2011年に三重県立美術館は、莫山さんの遺志により作品108点の寄贈を受けました。今回の展覧会は、これら寄贈作品に東大寺と教王護国寺(東寺)に所蔵される写経の手本、個人所蔵の陶器(榊莫山絵付)、関連資料を特別展示して、このたぐい稀な芸術家の全貌を紹介しようとするものです。
(学芸員 毛利伊知郎 友の会だより no.89 2012.3)