福田繁雄(1932-2009)
《ランチはヘルメットをかぶって…》
1987年 ステンレス
186×79×108cm
二戸市シビックセンター福田繁雄デザイン館所蔵
© Shigeo Fukuda Photo courtesy of Shizuko Fukuda
cat.no.261
福田繁雄にとってトリックへの関心は、視覚によるコミュニケーションの問題と結びついていた。もののあり方と見え方との関係と言い換えることもできるだろうか。
本作品でも、それだけとれば廃材のようなかたまりでしかないものが、照明をあてると、その影はくっきりとオートバイの姿を浮かびあがらせる。
この仕掛けを実現するために福田は労力を惜しまなかった。この作品はフォークやスプーン、ナイフなど食器を八四八本、溶接したものだという。目標となるイメージが影の方なのだから、影に合うよう、形を整えなければならない。その調整は並々ならぬものであったことだろう。
ところで実体ではなく影をオートバイと認識するのは、見る側の役割だ。見る側からの働きかけによって、はじめてコミュニケーションは成立する。
ここからたとえば、影をめぐる寓話や思惟を紡ぐこともできるだろう。しかしそれを引き起こす仕掛けは、食器を何百本もくっつけるという、何の役にも立たない、いわば遊戯だ。しかしこの軽快さこそが、コミュニケーションを成立させるための福田の立場なのだろう。
(石崎勝基)
読売新聞2011年7月14日