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美術館 > 刊行物 > 学芸室だより > 新聞連載 > 遊び心あふれる「だまし絵」 井上隆邦 2011.6.11 学芸室だより

筆者別原稿一覧:井上隆邦

 

遊び心あふれる「だまし絵」

井上隆邦

 

 日本を代表するグラフィック・デザイナー、福田繁雄氏の展覧会がこの夏、当館で開催される。残念なのは二年前にご本人が急逝したことで、開会式にお呼び出来ないのが悔やまれる。

 

 最後にお会いしたのは、亡くなる数ヶ月前のことだ。鳥羽市の「海の博物館」で行われた流木アートの審査会でご一緒した。「伊勢湾で釣りができるというので、つい審査を引き受けてしまったのですよ」と、茶目っ気たっぷりに話された姿が目に浮かぶ。

 今回の展覧会は福田ワールドを回顧する大規模な企画で、展示作品も四百点ほどある。いずれもユーモアのセンスがあり、それでいてどこか辛辣な社会批評が潜む。「だまし絵」的な作風が特色だ。

 

 福田さんとの出会いは、三十年も前に遡る。筆者が手掛けていた「南アジア映画祭」のポスター制作をお願いしたのがきっかけだった。当時の日本ではアジア映画と言えば、「暗い」、「遅れている」といったイメージが根強く、それを払拭するようなポスターをお願いした。出来上がったポスターは既成概念を覆すもので、映画祭の成功に大きく貢献した。

 福田さんの面白いところは「だまし絵」的な手法を実生活にも取り入れていることだ。ご自宅の「玄関」もその一例だろう。遠目には玄関のドアーに見えながら、近づくと、単なる絵であることに気づく。無論、本物の玄関は別の場所にある。

 

 常識の裏をかき、遊び心に溢れた福田さん。ご存命ならば、トレード・マークの「だまし絵」的なTシャツを着て、開会式に出席して下さったのではないだろうか。そのお姿を拝見できないのが寂しい。

 

(朝日新聞・三重版 2011年6月11日掲載)

 

学芸室だより

 

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