ゴヤ《戦争の惨禍》
〔59-60〕
フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス(1746-1828)
《戦争の惨禍 全80点》
1810-20年
エッチング他・紙
Francisco de GOYA y LUCIENTES (1746-1828)
Los Desastres de la Guerra(Set of Eighty Prints)
1810-1820
Etching and other techniques on paper
80枚にも渡る版画集は2つの世界を内包している。一つは激動の時代の証言とも言うべき作品群。もう一つは象徴や寓意像に借りての辛らつな体制批判となる一群。いずれも注文によらず、完全に自発的に取り組まれたものであった。
前者において記録されているのは、対仏独立戦争(1808-14)という人間の愚かさがもたらした悲劇と、1811-12年の飢餓という天災に見舞われたマドリードの惨状である。画家のまなざしはあくまでも冷静で、悪戯に母国愛や感傷に流れることなく、極限状態の人間の姿を銅板に刻印していく。
対して後者の矛先はフェルナンド7世(在位1814-33)による反動政治と、腐敗しきった聖職者に向けられている。前半の写実的な描写と打って変わって、馬やコウモリといった擬人増像が幅を利かせている。一見ユーモラスな画面の裏に込められた皮肉については誰の目にも明らかであろうい。
ゴヤが本作に取り掛かったのは、1810年ごろとされている。まさに戦乱の只中の制作であり、恵まれた環境の制作とはいい難い。このことは例えば、画面のサイズが一定しないことや、両面に刻まれた銅板の存在からも想像できる。しかし画家は約10年にわたって断続的ではあったが、制作を継続した。宮廷画家としての自らの立場を考慮してか、出版の資金不足のためか、本作は画家の手により出版されなかった。その全貌が明らかになるのは、画家の死後35年を経た1863年を待たねばならなかった。
(生田ゆき)
(44)私は見た エッチング、ドライポイント、ビュラン・紙 16.0×23.5cm (44) Yo lo vi. Etching, drypoint and burin on paper |
(79)真理は死んだ エッチング、バーニッシャー・紙 17.5×22.0cm (79) Murió la Verdad. Etching and burnisher on paper |
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