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夏が来れば思い出すのは〈大いなる正午〉というフレーズです。荒巻義雄の処女作のタイトルで、この特異な短編はニーチェに想を得たといいます。実際後者の『ツァラトゥストラはかく語りき』では、第一部末尾、第四部末尾など数カ所に件の語が見受けられます。ニーチェの預言者の名前は古代イランのザラスシュトラから借りたものですが、ニーチェとイランの祭司は思想的にはほぼ正反対と見なしてよいでしょう。ただ〈大いなる正午〉というイメージは、氷上英廣が記したようにイランの神話を思い起こさせもします。曰く、善神アフラ・マズダーは太陽を天の中央に固定し、地上を照らすものとして創造したが、邪神アンラ・マンユの侵攻の結果、太陽は運行するようになった。しかし世界の終末、アンラ・マンユが封印されたあかつきには、太陽は再び中天に静止し、世界は永遠に正午に留まるだろうというのです、もとより古代イランの人々、ニーチェ、荒巻それぞれのイメージはまったく異なるものでしょう。ともあれ今年も真夏がやってくるのでした。(Ik) 表紙の作品:橋本平八《花園に遊ぶ天女》(部分)1930年 東京藝術大学大学美術館蔵、北園克衛《『VOU』19、20》(部分)1937年 三重県立美術館蔵 |
2010年7月23日発行 表紙 |
毛利伊知郎 「橋本平八と北園克衛展 異色の芸術家兄弟」 |
田中善明 「Tsu Family Land 浅田政志写真展ふりかえり」 |
道田美貴 「川喜田半泥子展にちなんで」 |
原舞子 「海外研修派遣報告」 |