永島家伝来の曾我蕭白襖絵は44面にのぼります。蕭白2度目の伊勢地方訪問時期(1764年頃)に描かれたと推定される、規模としては最大級の作品群です。当館ではそれらを数回にわけてコレクションとし、平成9(1997)年にそのすべてが揃いました。襖絵は、文字通り建具としての用途があり、引手部分以外にも接触することや、たび重なる開け閉め、四季の温湿度の変動にさらされる運命にあります。襖の形式で残っている29面は、水濡れによるシミや、裏打ち(ここでは補強のため本紙の裏に貼られた紙)に使用された接着剤(糊)の変色、汚れ、擦れ、破れ、接着不良などのほか、襖の下地骨や縁木といった構造部分にまで傷みが進行していました。残りの15面は掛軸装に改装されており、上記汚れやシミのほか、水平方向に巻じわが強く走っていました。 程度の差はありますが、いずれの襖絵も、修復が必要な時期を越え、劣化が急速に進行している状態にありましたので、平成16(2004)年度から21(2009)年度の6ヵ年計画で修復が行われています。 修復とは制作当初の状態に戻す復元作業ではなく、作家オリジナルの部分を最大限尊重し、経てきた年月の履歴も考慮しながら作品劣化の速度を弱めるための処置であるという認識が今日大勢を占めてきました。今回の修理でも、そうした認識のもとに作業が行われていますが、今後の展示や取扱上の安全面を考え、襖の表面と裏面に描かれている《竹林七賢図》(8面)と、《波濤群禽図》(12面)を分離し、それぞれ片面の襖絵とする現状変更を行いました。 修復工程は対象となる襖ごとに少しずつ異なっています。基本的な流れをここで記述しますと、修復前の詳細な調査や現状記録ののちに、構造部が解体され、ろ過水によるクリーニング、剥落止め、旧裏打ち紙除去、破れた部分の補紙、楮紙による裏打ち、補紙の部分のみの補彩、襖の下地骨への6種8層の紙下貼り、貼り込みなどの工程をへて、最後に縁木、引手(以前のものを再利用)をとりつけ仕上げられています。 今回は、修復を終えた《松鷹図》(5面・平成16年度)と《竹林七賢図》(8面・平成17年度)を展示公開いたします。 (ty) |
《竹林七賢図》(部分)修復前
《竹林七賢図》(部分)修復後 |