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美術館 > 刊行物 > HILL WIND > ひる・うぃんど(vol.51-60) > ひる・うぃんど(vol.51) 1996.3 酒井哲朗「ひる・とおく」  浅野弥衛展

ひる・とおく

  2月22日浅野弥衛さんが逝去された。享年82才。天寿といえるが、もっと生きていてほしかった人である。三重県立美術館で開いた「浅野弥衛展」が終わった直後であり、展覧会の終了を待っていたかのように亡くなられた。浅野家で借用した作品はまだ返せないでいるうちに、事実上の遺作展になってしまった。

 

 「浅野弥衛展」の総出品点数は約270点余、ワンマン・ショウとしては最大規模の展覧会であった。それほど作域が広いわけでなく、また激しく変貌するというタイプの画家でないだけに、単調になりはしないかというのが当初の危惧であったが、見飽きることのない充実した展覧会であった。

 

 こんどの回顧展で気づかされたことは、浅野弥衛は渋い玄人好みの画家というのではなく、ふだん抽象画などをあまり好まない人たちの心に感動を与えたということである。会期中、私は身辺でいくつかその事例を経験した。また、この展覧会を見た三重大学教育学部の一部の学生たちの感想のなかで、浅野さんの芸術が若い人たちの心をとらえたことを知った。

 

 学生たちは浅野さんの作品を難解とは思わず、ごく自然にその世界に入り魅了されたようである。これは浅野さんの芸術の特質といえるものだろうと思う。それはこの自由で純粋な精神をもった芸術家が、日常生活のなかから、ごく普通の所作のようにきわめて自然に作品を発想し、制作していることに関係ありそうに思える。

 

 浅野さんは、厳格な自己規律と強靭な造形精神を、瓢々とした生活方式と、静かで深い、ストイックだがユーモラスな作品の背後に秘めて、われわれを惹きつけてやまないのである。有難う。浅野弥衛さん。 

 

(酒井哲朗・館長)

 

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