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美術館 > 刊行物 > HILL WIND > ひる・うぃんど(vol.31-40) > ひる・ういんど 第39号 三重県立美術館のワークシート

三重県立美術館のワークシート

 森本孝

 ワークシートについて調査を始めてから6年半の歳月が過ぎようとしている。アメリカとドイツ、フランス、イギリスなど、各国で制作の理念もそのスタイルも異なり、当館でも実際に制作しようと試みても、来館者の前へ出すには大きな抵抗があった。学芸員は美術館教育活動を行うには分野が違い過ぎるという戸惑いもその一つであった。日本にはそうしたセクションがなく、愛知教育大学の藤江充氏などの存在はあっても、専門家を養成できる大学も研究機関もまだまだ少ない状況のもとで、試行錯誤を繰り返しながらも、よりベターな三重県立美術館独自のスタイルをつくり上げていくことを前提として、「ミュージアム・ツアー・・・ナイーヴな大人と子どものためのワークシート」と題して、何はともあれスタートさせようと始めたのが1991年4月のことであった。

 

 「ヴィクトリア&アルバート美術館展」に展示された作品は、15世紀から19世紀に至る時代のイタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、ドイツ、イギリス、フランスの美術作品50点であった。国を横軸、時代を縦軸として、それぞれの作品の座標を示し、8点の作品を案内する「イタリア美術の旅」、4点を案内する「スペイン・ドイツの旅」、5点の作品を取り上げた「オランダ美術の旅」の3つに分けて、ママとウインダー君の案内という様式のものであった。感覚的に把握してほしいと願うことが豊富すぎて、子どもたちには難し過ぎるワークシートであったと反省しているが、展覧会の羅針盤となり、初めて楽しみながら鑑賞できたと、あるいは、保護者が説明しながら子どもと展覧会を巡り有意義に過ごせたと、喜びの言葉を残して帰る来館者も少なくはなかった。

 

 一つの作品について、様々な知識が豊富にあったほうが良いことに違いない。しかしその知識が作品を鑑賞するときに先入観を形成し、知性で作品を鑑賞しようとする場合には、むしろ弊害となってしまうこともある。モネならモネの絵の特徴を知っていると、その特徴ばかりに気を取られて、モネらしさを確認する作業を終えるとそれで満足する人もいる。表面的な美しさに感動し、それ異常深く見ることをしない人もいる。自己の感性を一時解放して、もう一歩踏み込んで、作者が行った創造活動の立場に身を寄せ、作者と出会い、心通わせることも鑑賞活動には重要な要素であろう。

 

 1点の作品を巡り、理解してほしいと思うことは多いが、まず必要なことは、意欲的に来館者が作品を見ようとする姿勢を引き出すことで、作品に何らかの興味や関心を寄せれば、学習への要求も自然に湧き上がってくるものであろう。

 

 当館でのワークシートや解説文は、小学生には極めて難しいものになっている。画像を手がかりに、今後は小学校低学年の子どもたちが楽しめるワークシートを制作することが現在の課題である。 

 

(もりもとたかし・普及課長)

 

美術館教育関係記事一覧

本画と下絵─宇田荻邨と近代日本画」ワークシートより

 

▽▽宇田荻邨(うだてきそん)「夜の一力(よるのいちりき)」

 

1 この「本画」(ほんが)は、一日のうちで、いつごろでしょう。

 

  (1)朝(あさ)(午前5時~10時ごろ)  (2)昼(ひる)ごろ(午前10時~午後4時ごろ)

  (3)夕方(ゆうがた)(午後4時~7時ごろ) (4)夜(よる)(午後7時~11時ごろ) 

 

  (5)真夜中(まよなか)(午後11時~午前5時ごろ)

 

 

2 「本画」(ほんが)と「下絵」(したえ)のちがいをさがそう!

  「本画」にあって、「本下絵」(ほんしたえ)にないものがあります。雰囲気(ふんいき)や感じ(かんじ)もちがいます。どこがちがうのでしょう。

 

 

    ─────────────────────

3 この「本画」と「下絵」を見ていると、部屋から明かりがこぼれてきます。 この「一力」というたてものは、京都の祇園という所にあります。「一力」の中では、きれいに着かざった舞子さんや芸妓さんとお客さんが、お酒を飲んだりおしゃべりをしたりしています。どんな雰囲気だと思いますか。

 

  (1)静かなようす  (2)少しにぎやかなようす 

  (3)にぎやかで、さわいでいる  (4)そのた(────────)

 

 

〈こたえ〉

1.(3)(4)(5)が正解!おそらく、(3)のゆうぐれどきと思われます。

  荻邨が帝展に初めて入選したデビュー作が、この「夜の一力」です。荻邨は、「太夫」、「祇園新橋」、 「港」、「南座」など、日が暮れてあかりがともるころの、人間味あふれる風景を主題とした作品を発表していきました。このシリーズの最後が「木陰」と考えられます。

 

 

2.左のすみに女の人が本画にあって、下絵にはない。そしてまわりの風景も少し違います。雰囲気として、本画が夜で、下絵はその感じがなく、昼の感じがすることです。おそらく、昼間に写生したことからでしょう。

 

3.ほんとは(3)、でも(1)(2)も正解!にぎやかであるのが普通だけれど、静かなときもたまにはあるでしょう。

宇田荻邨「夜の一力」

1919年

 

 

宇田荻邨「夜の一力(本下絵)」

1919年

 

 
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