森本孝 「ヴィクトリア&アルバート美術館展」に展示された作品は、15世紀から19世紀に至る時代のイタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、ドイツ、イギリス、フランスの美術作品50点であった。国を横軸、時代を縦軸として、それぞれの作品の座標を示し、8点の作品を案内する「イタリア美術の旅」、4点を案内する「スペイン・ドイツの旅」、5点の作品を取り上げた「オランダ美術の旅」の3つに分けて、ママとウインダー君の案内という様式のものであった。感覚的に把握してほしいと願うことが豊富すぎて、子どもたちには難し過ぎるワークシートであったと反省しているが、展覧会の羅針盤となり、初めて楽しみながら鑑賞できたと、あるいは、保護者が説明しながら子どもと展覧会を巡り有意義に過ごせたと、喜びの言葉を残して帰る来館者も少なくはなかった。 一つの作品について、様々な知識が豊富にあったほうが良いことに違いない。しかしその知識が作品を鑑賞するときに先入観を形成し、知性で作品を鑑賞しようとする場合には、むしろ弊害となってしまうこともある。モネならモネの絵の特徴を知っていると、その特徴ばかりに気を取られて、モネらしさを確認する作業を終えるとそれで満足する人もいる。表面的な美しさに感動し、それ異常深く見ることをしない人もいる。自己の感性を一時解放して、もう一歩踏み込んで、作者が行った創造活動の立場に身を寄せ、作者と出会い、心通わせることも鑑賞活動には重要な要素であろう。 1点の作品を巡り、理解してほしいと思うことは多いが、まず必要なことは、意欲的に来館者が作品を見ようとする姿勢を引き出すことで、作品に何らかの興味や関心を寄せれば、学習への要求も自然に湧き上がってくるものであろう。 当館でのワークシートや解説文は、小学生には極めて難しいものになっている。画像を手がかりに、今後は小学校低学年の子どもたちが楽しめるワークシートを制作することが現在の課題である。 (もりもとたかし・普及課長) |
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「本画と下絵─宇田荻邨と近代日本画」ワークシートより ▽▽宇田荻邨(うだてきそん)「夜の一力(よるのいちりき)」 1 この「本画」(ほんが)は、一日のうちで、いつごろでしょう。 (1)朝(あさ)(午前5時~10時ごろ) (2)昼(ひる)ごろ(午前10時~午後4時ごろ) (3)夕方(ゆうがた)(午後4時~7時ごろ) (4)夜(よる)(午後7時~11時ごろ)(5)真夜中(まよなか)(午後11時~午前5時ごろ)
2 「本画」(ほんが)と「下絵」(したえ)のちがいをさがそう! 「本画」にあって、「本下絵」(ほんしたえ)にないものがあります。雰囲気(ふんいき)や感じ(かんじ)もちがいます。どこがちがうのでしょう。
───────────────────── 3 この「本画」と「下絵」を見ていると、部屋から明かりがこぼれてきます。 この「一力」というたてものは、京都の祇園という所にあります。「一力」の中では、きれいに着かざった舞子さんや芸妓さんとお客さんが、お酒を飲んだりおしゃべりをしたりしています。どんな雰囲気だと思いますか。 (1)静かなようす (2)少しにぎやかなようす (3)にぎやかで、さわいでいる (4)そのた(────────)
〈こたえ〉 1.(3)(4)(5)が正解!おそらく、(3)のゆうぐれどきと思われます。 荻邨が帝展に初めて入選したデビュー作が、この「夜の一力」です。荻邨は、「太夫」、「祇園新橋」、 「港」、「南座」など、日が暮れてあかりがともるころの、人間味あふれる風景を主題とした作品を発表していきました。このシリーズの最後が「木陰」と考えられます。
2.左のすみに女の人が本画にあって、下絵にはない。そしてまわりの風景も少し違います。雰囲気として、本画が夜で、下絵はその感じがなく、昼の感じがすることです。おそらく、昼間に写生したことからでしょう。 3.ほんとは(3)、でも(1)(2)も正解!にぎやかであるのが普通だけれど、静かなときもたまにはあるでしょう。 |
宇田荻邨「夜の一力」 1919年
宇田荻邨「夜の一力(本下絵)」 1919年
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