三重県立美術館所蔵の橋本平八
毛利伊知郎 当館では、開館以来、橋本平八の作品収集を行い、また寄託も受けて、資料の収集に努めている。ここでは、主要なもの2点につき、若干紹介を試みることとする。 1.老子B 1932年作 高30.0cm 本像は、昭和7年の作で、平八の作品中では、後期に属するものである。平八が、仏教や老荘思想に強い関心を持っていたことは、よく知られている。なかでも老子像は、彼が好んで造形化した主題であり、初期からの作品が数多く残っている。平八の老子像には、顎髭を生やして長衣をまとい 右手に杖を持って、鋭い視線を放つ立像形式に表したものが多いが、本像のように岩座に腰を下ろした姿の像は珍しい。大きく目を開いた顔貌に、ユーモラスな表情が認められる点も、他の老子像とはかなり異質である。 2.弁財天 1927年作 高29.0cm 平八は、自らの作品を制作するに当たって、日本や中国の古代美術なども幅広く研究していたことが、彼の手記から推測される。特に、大正12年、関東大震災の後、弟の北園克衛と共に奈良市外都跡村に滞在して、奈良の古社寺を見て回ったことは、その後の平八の創作活動にとって、大きな蓄積をなしたことと思わわる。この弁財天はそうした平八の古典学習の成果が強く認められる作品である。額の広い卵形の童顔や眉眼の形、微笑を浮かべた口元の表現などは、法隆寺金堂の飛天像など、白鳳時代の彫刻を連想させる特徴であろう。平八には このほかにも同じく法隆寺の飛鳥彫刻・救世観音像を写した作品も数点見ることができる。平八の古典研究がいかに為されたかは、興味深い問題であるが、本像は、そうした問題を離れても、愛らしい魅力に満ちた作品である。 上記2点の他には、 〈1〉 猫A 1922年作 高35.0cm 〈2〉 馬鳴尊者 1925年作 高35.5cm 〈3〉 弱法師 1934年作 高33. 0cm 〈4〉 俳聖一茶 1935年作 高27.0cm
の初期から後期に至る4点が所蔵されている。いずれも高さ30cm内外の小品であるが平凡の彫刻か持つ求心的な特徴をよく示している。
(もうりいちろう 学芸員) |
![]() 老子B 1932年
![]() 弁財天 1927年 |