3. 彫刻、幾何学的傾向
20世紀のスペインの彫刻は、先にふれたゴンサレスやガルガーリョ以外、アンヘル・フェルラント(1891-1961)、アルベルト・サンチェス(1895-1962)(fig.20)、レアンドル・クリストフォル(1908- )などによって基盤が築かれた。これらの作家はいずれも、シュルレアリスムとの関連をうかがわせる、バイオモーフィックで曲線的な形態によって共通している。
内戦後の彫刻の出発点をなすのは、ともにバスク出身のオテイサ (1908- )とチリーダ(1924- )である。
オテイサ(1)(fig.21)はまた、スペインにおける幾何学的抽象の傾向をおしすすめた作家でもある。彼の彫刻では、幾何学的な面が複数組みあわされて、何らかの立方体ないし直方体の枠内におさめられる。その意味では求心的なオブジェとしての性格をしめすのだが、同時に、面のつながりはしばしば、直角より少し広い、ゆるやかな角度をなす。このため、求心性・量塊性を保ちつつ、多方向に開放していく空間を暗示することになる。こうした求心性と開放性との関係は、さらに、素材の鉄の緊張感をもひきだしている。物質としての存在感と強固な構築性を兼ねあわせたオテイサの作風は、ソラーノなど80年代の彫刻につながっていくだろう。 チリーダ(2)(fig.22)は日本でもしばしば紹介されてきた。線的な形態が鍵状にかみあわされることでその作品は、有機性と同時に文字を暗示するかのような記号性を帯びている。それでいて、素材の重量感ゆえ、ある種のモニュメンタリティを失なうこともない。 比較的チリーダに近い作風を展開した彫刻家として、マルティーン・チリーノ(1925- )があげられる。彼の構成は線の流れが基本となっている。 他方、トルレス=ガルシアを先駆に、オテイサによってすすめられた幾何学的抽象は、エキーポ 57 (1957-1961)やパラスエロ(1916- )、センペレ(1923-1985)らによって展開された。ただしこれらの作家の作品は、厳密な意味での幾何学的抽象というより、オプ・アート的な傾向が強いようだ。もっともパラスエロの後年の立体は、より厳格な構成をしめしている。 センペレ(『100の絵画』no.37-41)(3)(fig.23)は先にふれたように、バレンシアのグルーポ・パルパリョーの一員でもあった。クレー風の作品から出発して、オプ・アートないしキネティック・アート的な傾向に移っていくが、光を中核においたその作品は、つねに抒情性をたたえている。 同じくグルーポ・パルパリョーに参加していたアルファロ(1929- )(4)(fig.24)の彫刻は、線が空間へのびひろがっていくさまを主題とする。近年の作品では、よりゆるやかで有機的な、ユーモアを帯びた作風に移行してきている。 なお、バレンシアにおける幾何学的傾向は、この後もイトゥラルデ(1942- )(5)、ソレダー・セビーリャ(1944- )(6)(fig.25)などに受けつがれていくのだが、センペレに認められたオプ・アートないしキネティック・アート的傾向は、スペインでも一つの流れを形成した模様で(7)、『100の絵画』展で紹介されたエレーナ・アシンス(1940- )(『100の絵画』no.68-69)などの他、当館にタブローが収蔵されているアレクサンコ(1942- )(『100の絵画』no.72-74)(8)(fig.26)も一時期、運動への関心から、キネティック・アートやハプニングにまたがる活動を展開した。当館蔵の『ソルダイヴァー』(『100の絵画』 no.73)は、鮮やかな色彩とマティエールへの関心に重点がおかれているが、これもまた、シュプレマティズム的な構成に、運動および上記の因子をかけあわせたものと解釈できなくはない。この点、佐川晃司の作品と比較できるだろうか。 |
fig.20 サンチェス『根の狩人』1962 |