松尾芭蕉とおくのほそ道展
三重県初めての芭蕉展(10/19(日)―11/30(日))
佐藤美貴(学芸員)
「月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり」ではじまる『奥の細道』は、伊賀上野出身の松尾芭蕉の代表的俳諧紀行文として知られています。
芭蕉が奥州北陸の旅へ出発したのは元禄2年(1689)。芭蕉の敬愛した歌人西行の500年忌にあたる年でした。元禄5年にはその体験をもとに『奥の細道』の執筆をはじめています。完成したのはその2年後、芭蕉の没する元禄7年の春でした。元禄15年以降、数度にわたり刊行された『奥の細道』は、広くひとびとに読み継がれています。
従来、『奥の細道』の写本には、俳人素龍が清書した芭蕉所持本とその別本、奥州北陸紀行にも同行した曾良が草稿を写した曾良本などが知られていました。芭蕉自筆『奥の細道』が所在不明となっていたのです。ところが、昨年の秋、芭蕉の門弟野坡が所持していたといわれる、芭蕉自筆の『奥の細道』が紹介され、大きな反響を呼んでいます。
三重県が推進している「俳句の国・三重」の一環として開催する今回の展覧会では、素龍清書本『奥の細道』、芭蕉自筆本『奥の細道』などの『奥の細道』諸本を中心に、芭蕉自筆の短冊や懐紙、書筒、さらに芭蕉の影響をうけた門弟たちの文学資料を展示します。
また、『奥の細道』や松尾芭蕉に取材した絵画作品の中から、与謝蕪村筆《奥の細道図屏風》をはじめとする江戸時代の絵画作品や川端龍子、小野竹喬、棟方志功といった近代の画家たちの手による作品を紹介します。文学資料とこれらの絵画作品をあわせて展示することで、『奥の細道』と絵画との関わり、近世から現代にまで至る、『奥の細道』の影響の大きさをうかがうことができるでしょう。
友の会だより 45号より、1997・9・26