鳥海青児 《彫刻(黒)をつくる》 1953年
鳥海青児(1902-1972)
1953(昭和28)年
油彩・キャンバス
100×80.0cm
一九五九年末から翌春にかけて、鳥海青児はエジプト、イラン、イラク、インドへ旅行した。この「スフィンクス」はこの旅行の成果で、ほとんど同じ構図の作品が他に一点ある。
海外体験豊かな鳥海であったが、エジプトには特に強くあこがれ、「真に古代文明という言葉を使えるのは、古代エジプトだけではないかしら」とまで記している。青空のもと、強い日光を受けてそびえるスフィンクスとピラミッドは、とりわけ印象深いエジプト風景だが、この絵には、いかにも鳥海らしい渋い色調と簡潔な構成による画家固有の静寂に満ちた世界がつくられていて、単なる対象描写に終わらない鳥海の奥深い目と手と心の動きを見ることができる。 (毛利伊知郎 中日新聞 1994年6月3日)
かつてはあらゆるものがその土地の自然の素材から作られ、そこから生まれる微妙な色調には、それぞれ異なる名前が与えられていた。色名の本には今でもたくさんの言葉が並んでいるが、普段使うのは赤、青、緑といった貧弱な語彙(ごい)に限られ、われわれの色彩感覚も風土がはぐくんだものから遠く離れてしまった。
絵画の世界も同様で、西洋で生まれた油彩の技法の浸透は、画家の色彩感覚を大きく変えたといえよう。
その中でかえって異彩を放っているのが鳥海青児である。油絵の具を素材としながら、ここには紛れもなく、この風土から生まれた色彩と手触りがある。それは、目に強い刺激を与えることはないかわり、いつまでも見つめていることを許してくれる。 (土田真紀・中日新聞 1997年2月7日)
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