ルノワール 《青い服を着た若い女》 1876年頃
ルノワール、オーギュスト(1841 フランス -1919)
1876年頃
油彩・キャンバス
42.9×31.0cm
(財)岡田文化財団寄贈
ルノワールの絵に微妙な色彩の輝きがあるのは、白いキャンバスの上にまず透明な色を施し、それを生かして描き分けるからである。この作品の場合、まず緑色を油で薄めて塗り、茶褐色の絵の具で人物のおおまかなスケッチをし、それが乾いてから服や肌の色を乗せている。また、薄塗りで仕上げられているにもかかわらず、絵の具の厚みを微妙に調節することによって、前後の位置関係を表現している。
手前の鼻、襟などは比較的薄塗りで、奥に向かって徐々に薄くなり一番薄いところは、最初に施した茶褐色の色を残している。描く行程の中で下の絵の具が乾いてから塗り重ねる部分と乾かないうちから塗り、下の絵の具と混ぜ合わせる部分の使い分けが微妙で、透明さと不透明さが均衡を保っている。勢いあるタッチの中にもルノワールの熟達した技術がうかがえる作品である。 (田中善明 中日新聞 1992年8月28日掲載)
西洋美術の肖像画の伝統に「4分の3正面」という型がある。人物を正面から描くのではなく、中心をずらし、左右どちらかの部分を多く見せるのである。(右利きの画家が多かったので、モデルの顔の左側を見せる構図が優勢である)
アルプス山脈以北の北方絵画で盛・ノ用いられたこのアイデアは、ヨーロッパ全土に広まった。左右対称の像がいや応なく明らかにしてしまう、モデルの容姿への非情な率直さを回避するための絶妙の策といえよう。
しかし、本作では、少女は目鼻だちの整った若く美しい顔を堂々とわれわれの方に向けている。見る者を戸惑わせかねないこの構図を助けているのは、伏し目がちの内気なまなざしである。微笑とも哀愁とも定めがたい彼女の視線の先にあったものは、何であろうか。(生田ゆき 中日新聞 2000年6月29日掲載)
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