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美術館 > 刊行物 > 所蔵品目録 > 岡田文化財団コレクション 白石和己 岡田文化財団寄贈作品集3 2004

三重県立美術館・岡田文化財団コレクション

白石和己

財団法人岡田文化財団は、1980年設立され、以来、25年の間、三重県の芸術・文化の振興発展に努力されてきました。その活動は多岐にわたり、新進芸術家への助成、伝統文化の振興や地域におけるさまざまな文化活動への支援などが挙げられます。中でも、三重県立美術館に対する支援には多大なものがあります。1981年にマルク・シャガールの大作を寄贈していただいたのをはじめ、その後もほぼ毎年行われた日本および西洋絵画の名作の寄贈、美術館活動への支援などです。寄贈された作品は四百数十点を数え、いまや美術館収蔵作品の中でも、質、量とも重要な位置を占めています。

岡田コレクションは、美術館の収集の基本方針と関連を保ちながら作品収集が続けられてきましたが、コレクションとしての特色も次第に明確になってきています。その内容は、大きく(1)西洋近代絵画、(2)日本近代絵画、(3)三重ゆかりの美術に分けることができます。

西洋近代絵画は、19世紀から20世紀にかけてパリを中心に活躍し、世界的に広く名が知られた画家たちの作品が中心で、岡田コレクションの核ともいえる存在です。前述のマルク・シャガール《枝》は、花束や鳥が周りを囲み、幻想的な青い空間に浮かぶ恋人たちを描いたもので、当美術館では最も親しまれている作品です。その後、シャガール作品では多数の版画も寄贈されています。クロード・モネ《ラ・ロシュブロンドの村(夕暮れの印象)》は画面全体から重々しく力強い印象を受けますが、微妙な色調によって夕暮れの光の移り変わりをよく表現しています。オーギュスト・ルノワール《青い服を着た若い女》は抑制された色彩によって描かれ、理知的で端正な作品となっています。ジョアン・ミロ《女と鳥》の黒いダイナミックな表現は、円熟期のミロの特色を表しています。さらに、スペイン近代絵画の先駆者ゴヤの《アルベルト・フォラステールの肖像》は、日本ではほとんど見ることのできないゴヤの貴重な油彩画です。そのほか、ジョルジュ・ルオー《キリスト礫刑》、ラウル・デュフイ《黒い貨物船と虹》、エドガー・ドガ《裸婦半身像》などがあり、それぞれ作者の特徴をよく示した作品です。

また昨年、モネ《橋から見たアルジャントゥイユの泊地》が寄贈されました。この作品の描かれた1874年は、歴史的な印象派第一回展の開催された年で、沈んで行く夕日は刻々と移り変わる微妙な明るさを見せ、川面に映る光の揺らめきの表現とともに、印象派の中心作家だったモネの特徴をよく表わした作品となっています,

アントニオ・フォンタネージ《沼の落日》も重要な作品です。フォンタネージはイタリア人で、明治初めに来日して工部美術学校で油彩画の教授にあたりました。門下から浅井忠、山本芳翠、五姓田義松、小山正太郎といった日本の近代絵画を形成していった人々を輩出しています。この作品は彼の来日中のものであり、その意味でも日本の近代洋画史上重要な作品といえます。

日本近代の油彩画では、和田英作《富士》などが挙げられます。和田は黒田清輝に学び、フランスに留学してラファエル・コランに師事して外光派を取り入れた作品を制作し、黒田らと白馬会を結成して活躍しました。本作品はそうした特色がよく表れて格調の高いものとなっていまも藤島武二も白馬会で活躍した一人で力強い筆致と明るい色調に特色をもち、官展系の指導的立場で活躍しました。《大王岬に打ち寄せる怒涛》は三重県の大王町波切の風景をモチーフとした作品です。彼は明治23年から3年ほど津の中学校で教鞭をとっており、本作品は三重にかかわりの深いものといえます。さらに須田國太郎《信楽》、梅原龍三郎《霧島》などの油彩画、安井曾太郎《荒川風景(寄居附近)》や長谷川利行《裸婦》などの水彩画等、優れた作品があります。

この他、村山槐多と関根正二の二人の素描や詩の原稿も貴重な作品です。二人はともに、大正時代に二十歳ほどの若さで夭折したのですが、その評価は、近年ますます高くなっています。これら素描等からは、絵画、文学など芸術に寄せる多感な青年の心情が伝わってきて、彼らの芸術を理解するための貴重な資料といえます。

三重県は、古い歴史と豊かな文化的土壌を持っていますが、三重県立美術館はこの地域で活動する美術館として、開館前から三重ゆかりの作家や作品の調査を行い、展覧会で成果を発表する一方、作品の収集にも努めてきました。岡田文化財団からも、三重にかかわりのある作品の寄贈を受けていますが、その代表的なものが、松阪出身の日本画家・宇田荻邨の作品群です。《巨椋の池》は第五回帝展に出品した作品。アール・ヌーボー風の様式から脱して、古画研究により新しい作風を作り出していった荻邨の変遷をよく伝える優れた作品です。《祇園の雨》は長くアメリカの収集家のもとにあった作品で、荻邨独特の詩情豊かな雰囲気が強くあらわされています。また、荻邨の画室に遺されていた大量の下絵と写生帳の寄贈もあります。これらは彼の生の姿と制作のプロセスを知ることができる貴重な資料であるとともに、鑑賞の対象としても豊かな魅力をもっています。

三重ゆかりの作品としては、江戸時代18世紀に活躍した曾我粛白の作品もあります。《松に孔雀図》および《許由巣父図》の襖絵はもともと播磨地方(今の兵庫県)に伝来したもので、近年、評価がますます高まっている蕭白画の中でも優れた作品です。伊勢地方に残る蕭白画との比較検討を行う上でも大きな意味を持つ大作であり、国内最多の蕭白画コレクションを保有している三重県立美術館として、欠くことのできない重要な作品です。この他、岡田文化財団による新進芸術家育成の先駆けとなった小清水漸《作業台 水鏡》、松本薫《FROM 90° TO 90°》なども寄贈されています。

三重県立美術館は、近世から現代まで、また地域的にも、日本・外国という幅広い領域を対象としていますが、時代が遡る美術をあつかう場合でも、常に今日的視点に重きを置いてきました。美術館が新しい文化の創造に何らかの役割を果たして行くことが重要だと考えているためですが、そうした考えは岡田文化財団の文化支援活動にも共通しています。岡田文化財団は設立25周年を迎えられるわけですが、その文化支援活動は幅広く充実してきています。これからもますます発展されることをお祈りいたします。

(三重県立美術館長)

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