4 鳩
鳩の彫刻は、柳原義達という彫刻家を最も有名にした作品でもあるが、はじめて鳩が制作されたのは1962(昭和37)年のことという。最初の鳩のモデルはきじ鳩であったが、これは例外で以後制作される鳩はすべて孔雀鳩がモデルとされた。
近年まで柳原のアトリエでは純白の華麗な孔雀鳩が飼育されており、長年月の間柳原はこの鳩の姿と振る舞いに親しく接してきたわけである。「鳩によせて」という、鳩に寄せる思いを綴った文章をここに引いてみよう。
鳩は美しい。毎日の日課になっている私の素描のときは、嬉しさに身ごとよろこんでくれる。
私の鳩は孔雀鳩で、その感動は白に光り、そしてゆれ動く。
あるときは一本の足に、不思議な身動きの安定を求め、あるときは両足にヒロイックなポーズを乗せる。この籠の鳥は、私のそのときどきの意志の方向に姿をかえさせられる。
あるときは風の中の鳩になり、日向ぼっこの鳩になり、嵐の中の鳩にすらなる。私の夢が自然のなかをさまようとき、私の鳩も籠からはなれたかのように思える。自然の息吹と鳩とのかかわりがいつのまにか私の素描になってくる。身動いている不思議な命に鳩がみえてくる。私は彫刻家としての喜びにこのときはひたっているのだろう。
私の手のなかで、大気にはばたく私の鳩がいて、それは空間の動きで生命の美しさを感じる。
この世で生を同じくするものへのこまやかな愛情がこの美しい文章にはあふれている。大自然の中にいる鳩の姿を表すことによって、柳原は同じ地球上で自然の法則に従って生きている自己の営為を確認し続けているのである。