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美術館 > 刊行物 > 展覧会図録 > 1996 > ごあいさつ ロートレック展図録

ごあいさつ

19世紀末のパリ、自由でボヘミアンな気風に満ちたモンマルトルを自らの生活と制作の場とし、その時代に生きた人々の真実の姿を卓抜なデッサン力と斬新な表現で描き続けた孤高の画家アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックは、日本でも早くから紹介され、その作風は人々に親しまれ、高く評価されています。

ロートレックは優れた油彩画家でした。しかし完成されたタブローが少ないのは、売るために絵を描く必要がなかったというだけではなく、彼の芸術の本質がデッサンにこそあったからだとも思われます。優れたデッサン家なればこそ、彼はとりわけ優れた版画家でした。版画を制作するとき、彼はしばしば厚紙やカンヴァスを使って準備素描や油彩のスケッチを描き、版画を完成させています。また版画やポスターを油彩画とともに積極的に展覧会に出品し、好評を博しています。つまり彼にとって油彩画と版画との間に上下関係はまったくなかったのです。いや油彩画がときに版画のしもべにすらなるのです。彼が初めて版画に手を染めたのは、彼の芸術がまさに成熟の域に達しようとしているときでした。版画はまた印刷工房との共同作業でもあります。初めて版画を手掛けたときの感激を彼は母親に宛ててこう書いています。「…しかし版画はおもしろかった。ぼくは工房全体に指図できるという権力の感情を味わったのです。これはぼくには新しい感情でした。」

版画という表現手段を得たことで彼の芸術はますます斬新になり、数多くの試みがなされます。まさに版画こそがロートレック芸術の神髄だといっても過言ではありません。

本展は、ロートレックの版画作品を中心に、石版画によるポスターを加えて構成したものです。この版画コレクションは生前画家自身が手元に残していた作品をその最も正統な継承者が引き継いで今日まで至っているもので、現在までその存在は全く世に知られておらず、本展をもって初めて明らかにされます。

最後になりましたが、本展の開催にあたり、貴重な作品を快くお貸しくださいました所蔵者、さらにはご後援、ご協力くださいましたフランス大使館はじめ関係各位に深く感謝の意を表します。

主催者

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