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美術館 > 刊行物 > 展覧会図録 > 2002 > 今年度の「三重の子どもたち展」について 毛利伊知郎 三重の子どもたち展 発見!わたしの村 わたしの町 記録集(2002.2)

今年度の「三重の子どもたち展」について

毛利伊知郎

今年度の「三重の子どもたち展」は、昨年とは若干異なる構成をとっている。大きな相違は、所蔵品による企画展「子ども美術館 総集編」会期中に実施した、「とくべつスペシャルそうさくひろば」と題したワークショップを紹介するコーナーを設けたことである.

それは、美術館活動全体とはいえなくとも、コレクション展示など美術館の基本的活動と関連を持つ、参加体験型の美術館教育活動として試みたワークショップであった。

詳細は別頁で紹介されているが、この催しでは展覧会に展示された所蔵作品の中から、例えば白髪一雄や元永定正のように、絵筆など一般的な画材や描法によらない平面作品、あるいはデカルコマニーによって発想された向井良吉の立体作品等を選び、鑑賞とあわせて、その制作方法を子どもたちが追体験するワークショップ、あるいは「こわいってなんだろう」といった展示テーマについて子どもたちが考え、一人ひとりの「こわい」をマスクに表現するワークショップなどが行われた。

施設・設備面の制約や遠隔地からの参加が難しいなどの問題があるけれども、美術館活動の基本であるコレクション展示と結びついた教育活動として、また間接的ではあっても美術館活動を活性化していく一つの契機として、こうした活動は一定の意義があるのではないかと考えている。当館では、毎年県内各地域で所蔵品による移動美術館を開催しているが、移動美術館とこうしたワークショップとを組み合わせて実施し、地域との関わりを盛り込むことも十分考えられるので、今後も新たな展開を試みたいと思っている。

従来から実施してきた「発見!わたしの村わたしの町」というテーマによるワークショップは、今年度は度会郡御薗村一カ所のみでの開催であった。南北に長く、それぞれ変化に富む地域特性を持つ三重県を活動地盤とする当館にとって、このワークショップはややもすれば稀薄になりがちな県内各地域と美術館との結びつきを強化し、また美術館活動に広がりを持たせるなどの目的を持つと同時に、そこには各地域の多彩な文化・歴史・自然・生活等を見直し再発見する機会を、子どもたちだけでなく、より多くの地域住民が共有できればという願いが込められている。

このワークショップは、広い意味での「造形的な表現活動」を通じた美術館外での活動として一定の意義を持っていると関係者は認識しているが、美術館本体の基本的な活動との関連性がほとんどないこと、一過性のイベントに終わる危険をはらんでいること等々の問題をどのように整理していくかが、今後の課題であると考えている。

また、美術館活動による地域社会の再発見が「発見!わたしの村わたしの町」ワークショップの一つの眼目だが、その内実については種々議論があるのではないかと筆者は感じている。子どもたちが自身の身の回りに目を向け、周囲の世界に対する認識を新たにすること、しかも大人から教えられ、与えられたりするのではなく、自分自身の力でそれまで気づかなかった何ものかを見出すこと、そうしたことを目指すのが本ワークショップの目的ならば、そこには様々な道筋が考えられるだろう。

美術館によるワークショップは、「造形表現」をメインに据え、自然や歴史、伝統など様々な要素も取り込みながら行われてきた。そうしたワークショップの在り方は妥当なものであったと考えられるが、テーマが「発見! わたしの村わたしの町」という多様な解釈を可能にするものであるだけに、その視点やアプローチの方法を固定化させることなく、各地域の特性に対する柔軟な対応と広がりを持続することができるかどうかが大きな鍵になるのではないだろうか。

ところで、「発見!わたしの村わたしの町」というテーマは、「三重の子どもたち展」第2部にもかかっている。この意味については今後どのように考えていけばよいのだろうか。これに関して、「子どもたちが自分の生活や身のまわりに目を向け、見つめ直す活動を通じて、様々な驚きや発見といった体験が、生き生きと表現された作品」「地域にある伝統文化や自然に目を向けたり、身近にある素材に興味や関心を示したり、遊びへの積極的なアプローチを試みたり、自分の夢や未来を表現したり、自分なりの色や形を追求した表現作品」を第2部に展示すると開催要項には記されている。

このことに筆者は何ら異議を唱えるものでないが、年月を経るにつれて趣旨と現実とが乖離し、趣旨が空文化していく恐れは否定できないだろう。「三重の子どもたち展」が現在の形になって7年が経過したが、学校教育の在り方も大きく変化しつつある現在、今後もこのテーマを継続するのか、あるいは新たなコンセプト・別種の展覧会構成を模索するのか、議論していくことも必要だろう。

さらに付言すれば、「三重の子どもたち展」が、出品者を中心とした子どもたちや関係者が美術館と接する一つの契機となり、そこにも本展の意義があることは否定できない。しかし、本展の意味がそれだけではないこともまた事実だろう。子どもたちが学校でつくった作品を「美術館の企画展」として展示すること、そのことにどのような意義づけができるのか、その議論がまだ十分に尽くされていないと思うのは筆者だけだろうか。

その議論は、学校教育と美術館の教育活動とをどのように関わらせていくのかという問題にもなると考えられるが、現状では本展第2部に美術館のキュレーションがほとんど機能していないことも含めて、オープンな議論をしたいと筆者は反省も込めて考えている。

(もうりいちろう・三重県立美術館学芸員)

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