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美術館 > 刊行物 > 展覧会図録 > 2005 > 次回の三重の子どもたち展について-危機をどう乗り越えるか 毛利伊知郎 三重の子どもたち展報告書(2005.3)

次回の三重の子どもたち展について-危機をどう乗り越えるか

毛利伊知郎

毎年展覧会終了後に刊行されるこの「三重の子どもたち展」記録集には、ワークショップや展示のドキュメント、関係者による所感や展望、課題が掲載されることになっている。

特に、第2部「教育の現場から」については、図工美術教育関係者によるテキストが寄せられるが、そこからは図工美術教育にまつわる理想と現実のギャップ、様々な問題意識などがリアルに伝わってくる。

の中で、三重の子どもたち展の意義はこれまでも繰り返し述べられてきたところである。子どもたちの感性と身体とに働きかける造形活動の役割、三重県という地域社会の中で造形活動を通じて子どもたちと大人が交流する場としての意義、子どもたち一人一人を尊重する場としての意義等々、いずれに対しても誰一人異議を唱えないであろう。

しかし、展覧会や美術館を取り巻く最近の財政状況は、そうした意義が関係方面で広く認知され、その結果将来に渡って展覧会の開催が保証されるとは言い難いほど急速に悪化している。展覧会に関わる資金面の運営を担当してきた筆者個人の感覚は、「危機は突然訪れた」というところである。

三重の子どもたち展開催に必要な実質的直接経費は、近年は数百万円前後であった。しかし、過去に例を見ない大幅な予算削減の影響で、来年度はこの経費を美術館予算として確保することが不可能となった。次回の三重の子どもたち展は、限られた外部資金を活用して開催せざるを得ない。そのため開催方法、内容など様々な点で工夫を凝らす必要に迫られている。

世界で類を見ないほどに少子高齢化が進行し、科学技術の進歩とは裏腹に人間らしさを急速に失いつつある社会の中で、子どもたちの感性や身体を豊かに育むことの重要性、そのために造形活動が果たす役割を否定する者はどこにもいないだろう。

しかも、教育活動は短期的な成果のみで評価するものではなく、長期的なスパンでその意義を考えるべきものであること、その成果は必ずしも数値のみで表示できないものであることもしばしば指摘されるところである。

しかし、その一方でどのような領域でも短期間に目に見える成果を生む活動、成果をアピールすることに長けた活動が尊重される傾向が強くなりつつある。同時に、長期に及ぶ継続的活動はその持続性が重視される場合もあるが、往々にしてマンネリ化した活動と見なされる傾向があることも否定できない。

三重の子どもたち展の成果を誰の目にも見える形で提示することは現実にはかなり難しい。しかし、成果を強くアピールしていくこと、たとえ困難でもそうしたことを意識しながら活動することを私たちは求められている。

また、三重の子どもたち展は継続することに意義がある活動であるという主張も、立場を異にすれば毎年同じことを続けているに過ぎないではないかという見方も成り立つ。今後は名称や内容を、5年程度を目途にリニューアルしていくことを検討することも選択肢の一つになるかもしれない。

では、このような状況下、次回の三重の子どもたち展はどのように開催すればよいのだろうか。現時点で確実なことは、第1部のワークショップは見送らざるを得ないこと、第2部のみで開催するにしても、従来の方法で開催するには資金面でかなり無理があるということである。

今後も外部資金を獲得する努力を続けることはいうまでもない。しかし、限られた期間内で、さらに外部資金を得られる保証はない。以下では、いくつかの選択肢を提示して今後の検討材料としたい。

第一の選択肢は、従来の方法と内容を踏襲して開催することである。この場合、作品募集等について現場での実務的混乱を回避でき、展覧会運営のシステムを維持できるというメリットはある。しかし、経費面で不安要素が残り、解決すべき課題は少なくないと思われる。しかも、今後も厳しい状況が続くことを想定すれば、安易に従来の方法を踏襲することは避けるべきであるとも考えられる。

第二は、作品募集地域を限定するなど何らかの形で規模を縮小して開催する方法である。この場合、資金面の不安は少なくなるが、県内全域から作品を集めるという展覧会創設時からの理念に関わる問題が発生する他、作品募集等のシステム維持にも影響が出るのは避けられない。

第三は、作品募集等に当たって従来の方法を採用せず、自由出品など新しい方法で作品を集め、展覧会を構成する案である。自由出品は過去にも部分的に行われたことがあり、幾度か検討された経緯がある。しかし、民間の絵画教室からの出品が多数あった場合や応募作品が少ない場合の対応など課題も多く、さらに展覧会主旨と関わる問題もあって検討事項は少なくない。

また、これら選択肢については、展覧会開催方法の技術的側面だけではなく、サブ・テーマ設定や展示内容などの検討が必要であることはいうまでもなかろう。いずれにしても、なるべく早い時期に次回の開催方法、内容について協議する場を持ちたいと考えている。

こうした財政面の危機は2005年度だけの一過性のものというよりは、今後しばらく継続すると考えるべきであろう。そうであれば、一時しのぎの対処法ではなく、こうした状況下でも開催を継続できる三重の子どもたち展の在り方を様々な角度から考える必要があ・驕B

もちろんこうした活動が財政面の裏付けに追うところが大きいことは否定できない。しかし、一方で資金さえあれば良い活動ができるという保証もない。この危機を前に被害者意識を持つのではなく、より息の長い活動とすべく積極的な姿勢を持って議論したいと考えている。

(もうり いちろう・三重県立美術館学芸員)

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