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美術館 > 刊行物 > 展覧会図録 > 1998 > あいさつ ジョルジュ・ブラック回顧展図録

あいさつ

ジョルジュ・ブラック(1882-1963)は、彼の友人であったピカソとともに、20世紀の最も重大な美術革命ともいうべきキュビスム(立体派)を生み出した画家として有名ですが、彼はそのような改革者としてのみならず、80年余の生涯のうちに篤々と自己を熟成させ、その芸術を熟達の境地に至らしめた人として稀有な存在です。

ブラックは、パリ近郊にあってセーヌ河畔の心地良い小村として知られたアルジャントゥイユに生まれましたが、ここにはかつてクロード・モネもアトリエを構えていました。印象派の全盛期から、新印象派の点描法、後期印象派のゴッホやセザンヌを見て青年期を迎えたブラックは、革新の意気に駆られてマティスたちのあの激しいフォーヴィスム(野獣派)の動向に加わります。1907年頃からはこの視覚的世界の構造や人間の感覚の在り方などについて真摯に思索的であったセザンヌに惹かれて、まるで積み木を重ねたごとく構築的に、光と影とからなる空間の感覚を捕らえた風景画を制作し始めます。きわめて立体的に表されているこれらの風景画から「キュピスム」の呼称が誕生したのです。この頃知り合ったピカソとのよく知られている協同歩調は、実験と発明との連続であり、新しい表現と新しい意識の開発に寄与すること絶大で、20世紀美術の主要な特徴ともいうべき抽象美術の可能性に道を開きました。しかし第一次世界大戦以降は、自己に親密な室内空間に主題を求めた独自の静物画と室内画の制作に次第に没頭するようになります。

一見したところ穏やかでありながら、複雑な構造と深さとを秘めているブラック独特の絵画世界は、現実的で感覚的であるとともに知的であり、されには瞑想的であるとともに幻想的でさえあるといっても過言ではなく、これはすなわち彼の芸術が、個性的であるのみならず普遍性の最も高い境地に達していることを意味しています。

繊細緻密に仕上げられ、馥郁たるニュアンスをただよわせているその熟達の境地を鑑賞するために、この展覧会には、数少ない初期の作品から最晩年の作品に至る100余点の作品が展示されて、ブラック芸術を回顧するにふさわしい内容となっています。

この豊かな回顧展がここに実現したことは、ニューヨークのメトロポリタン美術館、パリ国立近代美術館、ギャルリー・ルイーズ・レイリス、株式会社レイクをはじめとする数多くの美術館および所蔵家のご厚意の賜で、深く感謝いたします。格別、メトロポリタン美術館のウィリアム・S・リーバーマン氏、ギャルリー・ルイーズ・レイリスのカンタン・ロランス氏から懇切なご鞭撻を受けたこと、ジャン・レイマリー氏とイザベル・モノ=フォンテーヌ女史から貴重な論文をお寄せいただいたことに感謝を表します。

また多大なるご尽力を賜りましたご後援のフランス大使館ならびに日本におけるフランス年実行委員会、ご協賛の東京会場、ご協力の日本航空とヤマト運輸など関係各位に対し深く感謝いたします。

1998年

主催者

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