あいさつ
1982年9月の三重県立美術館開館に際しサンパウロ美術館展が開かれましたが、ルネサンスから現代にいたるヨーロッパ絵画の名作と並んで展示された、ブラジル現代絵画を御覧になった方は、ブラジルにおける日系画家の活躍ぶりに注目されたと思います。
そのうちで最も若く、将来を嘱望されている日系3世の画家セルソ・スエタケの作品を記憶されている方々も多いと思いますが、この度サンパウロ美術館との共催のもとに、40点からなる「セルソ・スエタケ展」を開くこととなりました。セルソ・スエタケの母方の祖父母は三重県北牟事郡海山町の出身で、はやくからブラジルへ渡っており本県とのゆかりも深いものがあるといえるでしょう。
今回出品される40点は「コンポジション」と題された連作です。彼が偏愛する魚と鳥と人体のイメージがほとんどすべての作品に登場し、有機的なつながりを感じさせます。また、おそらくブラジルでも特異な部類に入ると想像されるきわめて細密な描写から生まれるのは、まだ年若く繊細な感受性をもつ芸術家がみたエロスとタナトス(生と死の本能)の交差した幻想世界のようです。
本展実現のために御協力いただきました関係者の方々に厚くお礼申し上げます。
1984年7月
三重県立美術館館長
陰里鉄郎