メッセージ
ここに「ブーダンとオンフルールの画家たち」展を開催いたしますことは,主催者として喜びこれに過ざるものはありません。
北フランス,ノルマンディの港町オンフルールはセーヌ川の河口,左岸に位置し,右岸のル・アーヴルが北フランス最大の交易港であるのに対し,西に向かって美しい緑の丘と海浜が広がり,ヴィレールヴィル,トゥルーヴィル,ドーヴィルなどの避暑地が開けています。19世紀にはこれらの海浜の町に自然を愛する多くの都会人が集まり,近代文明に疲れた精神の解放を計っています。
1824年,オンフルールに生まれたウジェーヌ・ブーダンは,早くから画家をこころざし,明るい大気を描写,外光を取り入れた新鮮な色彩感にあふれた作品を制作しました。この風光明媚なノルマンディには、爽やかな陽光を求め,それをカンヴァスに移そうとする画家たちがあいついで訪れ,特にオンフルールのサン=シメオン農場ではブーダンを中心に,相互に影響しあいながら,自然にじかに接する戸外での制作に努めています。そこではブーダンより28歳年長のカミーユ・コローをはじめ,16歳年下のクロード・モネやコンスタン・トロワイヨン,ヨハン・バルトルト・ヨンキント,ギュスターヴ・クールべなど美術史に特記される逸材や多くの画家たちの世代をこえた交流が行われています。後年印象派の中心的存在となるモネは,色彩や自然に開眼させてくれたブーダンに終生変わらない感謝の念を伝えています。
この展覧会は,96点におよぶブーダンの作品に,オンフルールに集まった33人の画家たちの作品92点を加え,彼らの画業の一斑を示すものです。これらの作品に接することにより,印象派誕生に至る一つの軌跡をご理解いただければ幸いです。
本展実現のためにフランス側監修者として献身的な努力を惜しまれなかったオンフルールのブーダン美術館長アンヌ=マリー・ベルジュレ=グルバン女史,フランス国立美術館総局のローラン・マヌーヴル氏をはじめ,貴重な所蔵作品をご出品くださいました各国の美術館,個人所蔵家各位に深甚な謝意を表するものであります。
1996年10月
主催者