このページではjavascriptを使用しています。JavaScriptが無効なため一部の機能が動作しません。
動作させるためにはJavaScriptを有効にしてください。またはブラウザの機能をご利用ください。

サイト内検索

美術館 > 刊行物 > 学芸室だより > 学芸員の仕事紹介 > 学芸員の仕事紹介(4) 作品の集荷(返却) 道田美貴 学芸室だより

学芸室だより リニューアル版

 

お題:学芸員の仕事紹介④ 作品の集荷(返却)

2006年6月2日(第4回) 担当:道田 美貴

 美術館で開催される展覧会には、その美術館の所蔵品で構成する展覧会と、他の美術館やご所蔵家からお借りした作品で構成する展覧会-前者はコレクション展あるいは常設展、後者は企画展、特別展などとよばれています-があります。所蔵品を展示する場合、作品の移動は収蔵庫、展示室間の移動にとどまります。しかし、他のご所蔵家の作品である場合は、所蔵者のもとから作品を拝借し―集荷と呼ばれる作業―、閉会後お返し―返却と呼ばれる作業―しなければなりません。一口に集荷・返却といっても、その美術館が独自で企画、開催する自主企画展や海外から作品を借りる海外展、複数の美術館で開催される巡回展など、展覧会によって仕事内容は大きく異なりますが、ここでは、一般的な国内での集荷・返却作業についてみていきます。

 調査研究、出品交渉を経て、出品作品が確定したら、展示作業までに作品を美術館に集めなければなりません。展覧会の担当者は、遅くとも展示作業の数週間前には地図を片手に集荷のスケジュールを調整しはじめます。作品は、美術品輸送専門業者の作業員とともに美術品専用車で運搬するため、業者との綿密な打ち合わせのもと、日程、時間、コースを慎重に組み立てていきます。ご所蔵者のご都合、拝借する作品の形態や点数、大きさ、地理的な問題などに加え、どの学芸員がどこへ集荷にいくのか、ということもあわせて検討しておく必要があります。基本的には、展覧会を担当する学芸員が所蔵先へうかがいますが、場合によっては数百点にも及ぶ作品を、すべて担当者が拝借するのは難しいということも多々あります。そういった場合に、他の学芸員に依頼することになるのです。また、トラック(美術品専用車)での移動となるため、天候と交通渋滞には特に悩まされます。雪や台風で身動きがとれなくなった!、交通渋滞でトラックが動かない!、道が狭くてトラックが入っていけなかった!さらに、天候や交通渋滞以外にも、ご所蔵者が急用で不在だった!!、借用予定の作品がみあたらない!!!等々、学芸員ならば皆、集荷、返却の際に数え切れないほどのアクシデントを経験しており、それをいかに解決したか、という武勇伝にはことかかないことでしょう。それらの苦い経験を思い出し、今回はトラブルがおこりませんように、と心から願いつつ行程表を完成させていきます。予定が決まったら、のこされた仕事、たとえば会場の設営やカタログの校正、キャプション、作品解説等の校正、広報活動等々美術館でおこなうべき作業の段取りを整え、引き継ぐべきものは他のスタッフに引き継ぎ、いよいよ集荷の旅に出発です。

 

 集荷時には、作品の複写入り調書、鉛筆、赤鉛筆などの筆記用具、ルーペ、懐中電灯、白手袋などを持参し、お借りする作品の状態を慎重にチェックします。お借りしたときと同じ状態でお返しできるよう、また万が一作品の状態が変化するような事態が生じた際、どこまでが本来の状態で、どの程度変化したのかということを明確にできるよう個々の作品の状態について確認しておく必要があるのです。作品のチェックを終えたら、梱包し、美術品専用車に積み込みます。適切な移動がおこなわれるように、突発的なトラブルが発生したときすぐに対応できるように学芸員も美術品専用車に同乗し、作品とともに次なる目的地へと移動します。

 

 作品を展示し広く活用していくことと同じように、作品の状態を悪化させることなく後世に伝えていくことが美術館のもっとも基本的な役割のひとつであることはいうまでもありません。作品を劣化させることなく貴重な作品を移動させるため、学芸員は細心の注意をはらい、集荷・返却という作業にのぞみます。温湿度の変化や衝撃などが生じる可能性のある集荷・返却。これらの作業は、学芸員の仕事のなかでももっとも神経をつかうもののひとつといっても過言ではありません。作業は1週間前後続くことが多く、集荷からもどった学芸員は心身共に疲労困憊、すっかり別人のようにやつれており、声をかけるのさえためらわれる・・・ような状態であることもめずらしくありませんが、ほっと一息つく間などはなく、緊張感を持続したまま展示作業等々に突入するのです。(展示作業については次回学芸室だより、でご紹介する予定です。)

 

梱包箱

海外から飛行機で作品を輸送する場合は、温湿度の変化、衝撃が国内移動以上に激しいため梱包も特殊であることが多い。取り扱いに注意するよう梱包箱には水気厳禁の傘マークやfragileの文字も。海外からの借用の場合、クーリエが同行することが多く、その場合の作品取り扱いはクーリエの指示に従う。

 

 

エドゥアルド・チリーダ展

 

エドゥアルド・チリーダ展(巡回/海外展)作品積み込みの様子。重い作品のためフォークリフト・トラックを使用しての積み込んでいく。当館での展示を終え、一括で次なる開催地へ。

 

 

作品の調書

 

作品の調書。集荷時、開梱時、展示終了後梱包時、返却時などには慎重に作品の状態をチェックする。調書には、作品の状態とともに点検した日時と担当した学芸員のサインが並ぶ。

 

ページID:000056187