学芸室だより リニューアル版
お題:学芸員の仕事紹介⑥ 教育普及
2006年9月6日(第6回) 担当:下 栄子
はじめに
「教育普及」という言葉は、一般にはあまり馴染みが無いと思われますが、実際には様々な場面で行われています。学芸(員)が担当している多岐にわたる仕事の中から、「作品の収集、保存・修復、調査研究、展覧会の開催」といった、美術館の根幹を成す部分を除いた殆どが「教育普及」に入るといっても過言ではないでしょう。そして、この「その他」だった分野への期待は、今後更に高まっていく方向にあるといえます。
さて当館の「教育普及」には、大まかに分けて「一般県民を対象としたもの」と、「学校や子どもたちを対象としたもの」があります。前者については、移動美術館、ギャラリートーク、出前トーク、美術セミナー、美術講演会、ミュージアムコンサート、様々な広報媒体への取り組み等々があります。今回は後者、即ち私が主に担当するところの、「学校や子どもたちを対象とした教育普及」の仕事について、日常的なものから、少し大きなイベント的なものまで、その内容をいくつか紹介します。(刊行物の「年報」の各年度の教育普及欄にも、関連記事や画像を掲載しています。)
小中学校、盲・聾・養護学校、高等学校、幼稚園等の学校団体をはじめ、保育所などの児童福祉施設団体が美術館を訪れる際の、受け入れ業務の諸々を行います。 「○○小学校ですけど、○月○日に美術館に行きたいんですが」という問い合わせの電話をいただいたら、まず「観覧料免除申請書」と希望内容の詳細記入用の「アンケート用紙」をFAXで送付します。(年度始めに小中学校や養護学校に送付している「美術館利用案内」の中の資料と同じです。)回答いただいたアンケートの内容によっては、先方と打ち合わせた上で、様々な手配が必要になってきます。例えば、観覧に際して特別のプログラムの希望がある場合は、内容によって、担当する学芸員との調整が不可欠ですし、ボランティア会員の援助が多数必要な場合もあります。また大型バス利用の場合は、近くの総合文化センターに連絡を取り、観覧時間内のみ駐車場を借用できるよう手配をしておくことも必要です。ともあれ、必要な情報をすべてアンケート用紙に書き加え、当日の受け入れができるだけスムーズにいくよう、館内の諸担当にあらかじめ伝え、手配しておくことが大切な仕事です。 |
展示室にて
収蔵庫にて
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アートカードみえの作成と貸出し「アートカードみえ」とは、当館の所蔵作品を素材とした、学校貸出し用の美術鑑賞教育支援教材のことです。平成15年度に、学校の先生方を多数含む実行委員会のメンバーと共に、土・日中心に、企画から完成まで9か月間かけて作成し、16年度から、県内小中学校、盲・聾・養護学校に貸出をしています。(要望があれば、適応指導教室や高校・大学等にも貸出しています。) 「アートカードみえの『スタンダードセット』と、『学習カードセットNo.35』を借りたいんですけど」というような電話と「借用申請書」を受け取ったら、早速準備をします。来館可能な先生には直接受渡しをし、遠くて来られない場合は宅配便で送ります。返却しに来られた先生方自身の口から、あるいはアンケートの回答から、子どもたちの授業での盛り上がった様子などを聞かせていただいたりすると、とても嬉しく、限られた時間内に多様なセットを皆で作成した苦労が大いに報われる思いです。のみならず、子どもたちの顕著な変化の報告からは「鑑賞学習の支援」を超えた可能性すら感じられたりします。 この教材については、実行委員会の協力員をはじめ、「三重の子どもたち展」の委員や実際に使用された方々も、県内各地域で行われている図工・美術の研修会などで周知活動を進めてくださったりしています。ありがたいことです。 |
アートカードみえ スタンダード・セット
アートカードみえ 素材コレクション
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学校美術館「学校美術館」は、子どもたちがすぐれた美術作品に接する機会をつくることを第一のねらいとして、当館の所蔵品二十点程を学校の体育館等に展示し、児童生徒・教職員・保護者あるいは地域の人々にも鑑賞していただく取り組みです。ただし、子どもたちに展覧会に主体的に関わってもらう手だてとして、展示する作品を事前学習の中で選んでもらう形をとっています。平成14年度末にT学芸員からこの構想の提案を受け、教育普及担当と学芸員が協同して取り組むことになったのです。 実現のためには、事前学習の際に子どもたちがじっくり見ることができる作品資料が必要でした。当時当館は10月からリニューアル工事に入っており、多くの作品を愛知県美術館に預かってもらっていました。移動美術館用に残してあった作品群の、しかも温度・湿度の変化や光などにもある程度耐え得る作品の中からリストアップし、「学校美術館カード」として作成することになりました。収蔵品の中でも特に代表的なものを対象とする「アートカードみえ」のスタンダード・セットについても同時期に構想を練っていましたが、使用時期の必然性から、「学校美術館カード」の方が先となりました。 私は、このカードの作成時に、初めて「ポジフィルムと見比べながら印刷物の色校正をする」という経験をしました。作成途中のカードを1枚1枚時間をかけて確認し、「No.5は全体に少し青みを加える」とか、「この部分の赤はもっと鮮やかに」、「余白とのバランスからもう2mm大きく」といった注文を56枚分書き出す作業、印刷業者さんに伝えていく作業はなかなか大変でしたが、その結果、少しずつポジの色に近付いていくことに手応えを感じました。その経験は、その後の「アートカードみえ」スタンダード・セットの64枚を作成するときにも生かすことができました。 さて、次に必要なのは、実際に「学校美術館」を実施する学校の決定です。年度によって状況が異なるため、決定の仕方はまちまちです。教育委員会経由で募集して決定したケースもありますし、美術館側から直接打診をして決定したケースもあります。 実施校決定後の教育普及担当の仕事は、学校との連絡と事前学習のための資料・教材の準備、キャプションの作成、当日の子どもたちへの鑑賞マナーについての話など。また、学芸員は子ども向けのパンフレットの作成、作品の事前準備、輸送・展示・撤収に関する諸作業、当日の子どもたちからの質問への対応などを担当します。17年度などは、展示・撤収作業の肉体的労働力の確保という意味でも、学芸室内メンバー総動員態勢(!)に近い形で取り組みました。 |
北浜中学校美術館 2003年6月
尾鷲市学校美術館 2004年6月
常磐小学校美術館 2005年6月
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子どもひろば「子どもひろば」は、夏休みや「三重の子どもたち展」開催期間中の毎週土曜または日曜日に実施している、年中児以上かつ小学生以下の子どもたちを対象としたイベントです。かつては「美術館わくわく探検ツアー」及び「創作ひろば」として位置付けていましたが、昨年度より両者を一本化し、バックヤードツアーや作品の鑑賞ツアー、鑑賞と関連付けた創作活動などを行う現在の形にしました。 学芸補助員のNさんがアイデアを練って企画するユニークな「子どもひろば」には、参加申込みが各回定員を上回り、なかなかの盛況ぶりです。美術館の担当だけではスタッフ要員が不足しがちなため、学校の先生や学生さん有志が協力参加してくださったりしています。ちなみに今夏のプログラムは、「いっしょにゆっくりじっくりみるかい」、「色をみつけて色をさがす」、「アートゲーム王選手権」、「大好きなXさん」、「美術館すごろく」、「だいすきなカタチ」です。いかがでしょう?皆さんもちょっとお客として、あるいはスタッフとして参加してみたいな・・と思われませんか?子どもたち対象のものではあっても、私たち自身が楽しめるものであることが、こうした取り組みの大切な要素なのでしょう。 ただし!イベント終了後には、ほっと一息つく間もなく、恒例の「反省会」に入ります。その日の良かったことは何か、問題点は何か、次はどうしたらよいか。そのつどきちんと確認していくことは、次回以降のイベントをよりよいものにしていくために必要なことですが、厳しい視点で意見が交わされるこの会は、スタッフにとって、イベント中と同様に身の引き締まる場ではあります。 |
「チョウコクを感じる」 2005年8月
「絵をみてきこえる音楽は」 同8月
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ワークショップ(地域版) 熊野ワークショップ 「KAMIのくに・熊野 -宿るかたち・私のいるかたち-」 2002年8月
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アーティスト半谷学さんからの話 | 岩を型に、紙の立体をつくる作業 | 大きな和紙に熊野の海を描く |
手も足も総動員で描く | 麻と天然ゴムと海藻で作った紙 | 竹で骨組みを作る |
左は進行役の近藤真澄さん | 熊野の花火をイメージした作品 |
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海山町ワークショップ 「木ラックスアート2004」 2004年7月 |
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進行役の大和慎さんからの話 | まずは縦糸を張る作業 | ひたすら織る |
田中一幸教授からアドバイス | ヒノキのかんなくずを作る実演 | ヒノキと布や毛糸による裂織り |
「種まき権兵衛の里」にて展示 | 廊下にも展示 |
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ワークショップ(館内版)「ムシの視界、ムシの気持ち」 KOSUGE1-16 |
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レンズを使って複眼を作る | 自分だけのムシをめざして | 完成間近 |
展示室へ出発 | 複眼で見た作品を探す | ちょっとひと休み |
ムシたち全員集合! | ムシはやはりここに |
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ワークシートの作成・・・JAMM研究会と共に※JAMM研究会の活動風景
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ワークシートの作成会議 | 子ども対象のイベントに協力 | 同 「オリモノ・アート2005」 |
同 「美術館すごろく」の準備作業 |
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出張授業「職場体験学習」、「社会体験研修」等の受け入れ |
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会議室にて(作品資料の整理) | 収蔵庫にて | 展示室前にて |
展示室にて |
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他 |