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美術館 > 刊行物 > HILL WIND > Hill Wind (vol.11~24) > エミール・ノルデ《ハンブルク港》 美術館ニュース Hill Wind 17(2007年12月)

館蔵品紹介番外編

エミール・ノルデ(1867-1956)《ハンブルク港》

1910年、エッチング、アクアチント・紙 30.5×40.5cm

 

夏の余韻がようやく冷めだした9月の終わり、開館25周年記念の一環として、友の会研修旅行の一団がドイツへと旅立ちました。目的地はドレスデン、ベルリン、ハンブルクなど中北部の都市の歴訪です。もちろん行く先々に待つ世界に名だたる美・博物館の壮麗な展示にも心躍りますが、引率の命を受けた私の密かなお目当ては一行とは別の所にありました。それは、是非ハンブルク港をこの目で見たい、というものでした。

 

デンマークとドイツの国境近くに生まれたドイツ表現主義の画家エミール・ノルデについては、3年前の「エミール・ノルデ」展にてご紹介したので、まだ記憶に新しいかと思います。実は当館もノルデの版画を4点所蔵しており、そのうち1点の題が《ハンブルク港》であったのです。

 

さて、話をもとに戻すなら、ハンブルクに宿をとったのは、旅程の最後の二晩のことでした。歴史的に語るならば、同市はドイツの繁栄の要となったハンザ同盟の中心都市であり、経済的に見ればその港はドイツ最大の、欧州連合第二の規模を誇ります。私達を乗せたバスもそのような観光名所を外すはずもなく、2度ほど足を止める機会がありました。いずれの場合も強い風と矢のような雨に体は震え、土産話としてはあいにくの天気でしたが、却ってノルデの描いた港に近づけたような気さえしたのでした。

 

帰国後、改めて文献をひもときますと、ハンブルクに関する版画が制作されたのは、1910年の春に集中していることがわかりました。ノルデは酒場の階上にある安下宿に投宿し、湾港労働者たちと交わり、何度も港に足を向け、行き交う船やドックを眺めてはその活気や喧噪に心を躍らせました。そしてわずか三週間の滞在のうちに、墨と筆による多数の素描、19点のエッチング、4点の木版画、数点の油彩画を残したのです。ハンブルク・シリーズと呼ばれるそれらの作品に対し、ノルデ自身大いに自信を持っており、「それらは、騒音とどよめき、陶酔と煙と生命を具えている」と記しています。

 

今回のドイツ滞在で、茫漠としたシルエットでしかなかった《ハンブルク港》が私の中で立体的なものとして立ち現れてきました。色や形といった細部はもちろんですが、音や風や温度までもがそこに加わり、記憶の奥深くへと刺さってくるのです。絵を見る、作品を味わうというのは、こうやって足で行うことでもあるのだと、この絵は私に教えてくれたのかも知れません。(Iy)

 

作家別記事一覧:ノルデ

エミール・ノルデ 《ハンブルク港》

《ハンブルク港》

 

ハンブルク港 写真

 

 

ハンブルク港 写真

 

 

ハンブルク港と倉庫街

ハンブルク港と倉庫街

※この記事は2007年12月14日発行「Hill Wind 17」に掲載されたものです。
 
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