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美術館 > 刊行物 > HILL WIND > Hill Wind (vol.11~24) > エドゥアルド・チリーダ展拾遺 美術館ニュース Hill Wind 12(2006年8月)

エドゥアルド・チリーダ展拾遺

チリーダ展の会期中および直前には出品作について書く機会が幾度かありましたが、書き損ねたものもいくつか残りました。その一つが《空間の転調Ⅱ》です。とはいえ口頭でふれる機会がなかったわけでもなく、その際にはジェット・コースターにたとえたりしました。解きほぐしがたくからまりあった、しかし全体として斜めに傾いでいるため、強い動勢がそこに生じる。それでいてからまりあうさまは動勢を外に逃がすことなく、境界の内側でぐるぐる循環するかのごとく感じられる、そこからそんなたとえが浮かんだのでしょう。

 

動勢が生じるのは、作品が一かたまりではなく、折り曲げた鉄棒を集めて作られているため、隙間がふんだんに開いているからです。この点で後のより整理されたモニュメンタルな作品とは一見異なるものの、出品作の内では比較的時期の早いここでも、チリーダの特性は見てとれることでしょう。また鉄棒がすべて、特徴的な鉤型をしている点も見逃せません。鉄棒は他方、太い角柱状をなしており、空隙との間に緊張をもたらしています。後のチリーダの作風は、このからまりを解きほぐし、一本一本独立させた上でさらに展開させることで成りたったのだといっては、後知恵が過ぎるというものでしょうか。

 

この作品についてはさらに、四周のどこから見てもそれぞれにまとまった、それでいて性格の異なる眺めを呈していた点が注意を引きました。西欧の伝統的な彫塑において、石彫など彫刻では一方向から見られることを要請する傾向が(ミケランジェロなど)、塑像においては周囲を巡らせる傾向が(チェッリーニやロダンなど)強いと時に指摘されます*(あくまで傾向ですが)。伝統的な制作技法から離れた彫塑において、かつての彫塑とは異なる形でいかに周囲の空間と関わりあうか、これはその一つの例なのでしょう。本作品の場合、空隙と干渉しあう循環運動がこうした特性をもたらしたわけですが、とまれチリーダの作品には、まだまだ考える材料がいくつも秘められているようなのでした。

 

(Ik)

 

年報 エドゥアルド・チリーダ展

作家別記事一覧:チリーダ

* エルヴィン・パノフスキー、浅野徹他訳、『イコノロジー研究』(下)、ちくま学芸文庫、2002、pp.75-85;ルドルフ・ウィトコウアー、池上忠治監訳、『彫刻-その制作過程と原理-』、中央公論美術出版、1994、など。

*この記事は2006年8月1日発行「Hill Wind 12」に掲載されたものです。

 
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