闘牛といえば、ローマ帝国で流行したミトラス教の神殿に残る図像が思いだされます。そこではミトラス神が牡牛を屠るさまが表されているのです。ミトラスはイランのミスラに由来するものの、ミトラスの密儀と彼の地の宗教とは別ものです。とはいえ後者においても、牛の表象は重要な位置を占めていました。その開闢神話によれば、善神アフラ・マズダーに創造された原初の牡牛は、原人ガヤ・マルタンとともに邪神アンラ・マンユに殺されるのですが、その死によって宇宙に豊饒がもたらされるのです。ミトラスの牛殺しも同様の意義を担うとして、直接の関連はないにせよスペインの闘牛もまた、なんらかの豊饒儀礼をその起源とするであろうことは想像に難くありません。もっとも、いずれ人間の勝手な理屈にかわりなく、牛たちにとっては迷惑至極なことでしょう。ともあれ今年は牛ならぬ戌年なのでした。(Ik) |
2006年2月15日発行 表紙 |
生田ゆき「第1室:ヨーロッパ近代絵画」 p1 |
石崎勝基「第2室:ゴヤの《闘牛技》」 p3 |
田中善明「第3室:野田英夫とアメリカに渡った画家たち」 p4 |
毛利伊知郎「第4室:元永定正の作品」 p5 |
下栄子「美術館のウラオモテ~職場体験学習の実際と課題~」 p6 |