2004年は20世紀美術に多大な影響を与えた芸術家の生誕100周年にあたる年でした。1904年5月11日、フランスとの国境近くの街フィゲラスに生まれた男の子こそ、後にシュルレアリスムを代表する画家として名をはせるサルバドール・ダリでした。 この記念すべき年に、「サルバドール・ダリ 生誕100周年記念展」がヴェネツィア(2004年9月12日~2005年1月16日)とフィラデルフィア(2005年2月6日~5月30日)で開催され、当館所蔵の《パッラーディオのタリア柱廊》が出品されました。 油絵、素描、彫刻、オブジェなど、ダリの残した作品は膨大な数にのぼるため、それらをすべて1つの会場に展示することは、物理的に不可能です。それ故、主催者側は展覧会のコンセプトや施設の広さを考慮し、最も効果的な作品の選定を行わなければいけません。特に今回のように、一人の画家の回顧展となると、そこに選ばれた作品というのは、その画家を語るには不可欠と考えられたと見なして良いでしょう。 ヴェネツィアは四方を海に囲まれた奇跡のような町並みが、多くの旅人を引きつけてやまぬ場所です。東京から空路ミラノへと、陸路ヴェネツィアへと運ばれた作品は、最後はボートに積み替えられ、紺碧の波をよせる運河をゆっくりと会場まで進みます。大事な作品をしまった木箱ごしに見る運河の情景は、それこそシュルレアリスムの絵画のようです。 展示作業を見守っているとき、不意に声をかけてくる人がいました。どうやらその人は当館のダリのかつての所蔵者の関係者でした。彼女の話によれば、当館のダリは長い間行方不明の「幻の名画」とされており、関係者たちは今回の出品を心待ちにしていたとのことです。このように、国内外を問わず、展覧会の準備作業では予期せぬ、貴重な出会いが待っており、そこから新たな研究の端緒が見つかることも少なくありません。 その後、年が変わり2005年になると、ヴェネツィアの作品たちはフィラデルフィアへと巡回しました。フィラデルフィア美術館はアメリカでも3本の指に入る美術館であり、特に近現代美術のコレクションの充実ぶりに評判が高い所です。ギリシャの神殿を思わせる巨大な会場には、そこかしこにダリのイメージが溢れ、展覧会の熱気に包まれていました。
ちょうど作品を引き取りに行った際にみた地元の新聞には、この展覧会がフィラデルフィア美術館歴代2位の観客を動員したと報道されていました。その熱気はスタッフの人たちからも伝わり、作業中に「成功おめでとう」と声をかけると満面の笑みで「ありがとう。こんなことはもう二度とないわ」と返してくれました。 「幻の名画」から回顧展出品作へ。当館所蔵の作品をめぐる状況はこの1年ですっかり様変わりしました。これを機に、多くの美術館や研究者から問い合わせが増えてくるに違いありません。そのような晴れ舞台に居合わせることができたことも、学芸員冥利に尽きるといって過言ではないでしょう。 (Iy) |
![]() ヴェネツィアの運河を運ばれる作品 (左手に見える白い建物が展覧会会場)
![]() ヴェネツィア会場での展示風景
![]() フィラデルフィア美術館
![]() フィラデルフィア美術館撤収作業直前の作品と木箱
![]() ダリ展成功を報道する地元の新聞 |