地下鉄東西線の竹橋駅で降り、「竹橋」を渡るとすぐ右手に東京国立美術館がみえてきます。それを通り過ぎ、道なりにしばらくゆくと、赤煉瓦造りの明治の洋館風の建物が現れます。これが、「旧近衛師団司令部庁舎」として重要文化財に指定されている、東京国立近代美術館分館としての工芸館です。1977年(昭和52)に開館したこの工芸館には現在約2500点の作品が収められていて、外観にあわせて改装された落ち付いた展示室のなかで、明治以降、現在までの日本内外のさまざまな工芸作品をみることができます。 今回の展覧会「名品でたどる近代工芸のあゆみ」は、この国立近代美術館の収・する工芸作品約100点によって、日本の近代工芸のさまざまな展開と様相をたどりなおしてみようとするものです。 「工芸」のジャンルもまた、西洋美術の圧倒的な影響をうけないわけにはいきませんでした。要するに、個人の創造性とか独創性を重視する全体的なながれを受け入れて発展するのですが、そこには油彩画や彫刻とはひと味ちがった反応があったことも事実です。 というのも、非個性的な手仕事の意識がきわめてつよい領域である工芸の場合、伝統あるいは伝承された技術ということをまったく無視しての独創性はありえないからです。そこでこの伝統意識をどう受け入れ、そこからどう抜け出すかが、個々の作家にとってきわめて重大なもんだいになってくるわけです。今回の展覧会の見どころもまずここにあるといっていいでしょう。 展覧会の構成は大きく8つに分かれます。
大きな分類はこうなりますが、工芸の流れはゆるやかに入り組んでいますから、こういう一種の垣根はあまり大事なこととかんがえず、気にいった作品から作品へとみてゆくほうが楽しむことができます。戦後の作品が意外に多いのですが、個人の影が大きくなったり小さくなったり、伝統があったがために、よけいに「近代」の波をかぶってしまったその変化の振幅から工芸の世界のありようを考えることもできそうです。 (Hs) |