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美術館 > 刊行物 > HILL WIND > ひる・うぃんど(vol.41-50) > 清水九兵衞「FIGURE-B」

所蔵品から

清水九兵衞「FIGURE-B」

 清水九兵衞は初期の彫刻に「AFFINITY」というタイトルを与えている。AFFINITY、すなわち彫刻とそれが置かれる空間との「親和」的な関係は、抽象の立体造形に取り組む以前から清水が大きな関心を抱いている主題であった。それはたとえば、清水が住む京都の町における黒瓦の家並、壁や塀のあり方に近いもので、それらが生活空間に見事に融け込みつつ、独自のフォルムと質感を有していることに清水がはっきりと気付いたのは、イタリア留学から戻ったときであった。

 

 そう言えば、以前から黒瓦の屋根に興味をもちながら、それは、個々のフォルムへの関心にすぎなかった。しかし、イタリアの古い街を歩いているうちに、最初は味もそっけもないと思われた平板な屋根の連なりに次第に愛着をおぼえるようになった。そうして帰国した時に、黒い甍の波の広がりの中に気がつかなかった感覚を思いしらされたことがある。

 

 それ以来、清水自身の彫刻も、独自のフォルムと質感を持ち続けてきた。初期の地を這うような彫刻に始まり、ときにそのフォルムは地上に高くそびえ立ち、あるいは壁のように立ちはだかるが、緩やかにカーヴする曲線によって特徴づけられ、あたかも内部から何らかの力によって膨らんだかのような感を見る者に与える。その膨らみは、中身の充実したマッスというより、中が空洞のヴォリュームというべきものであろう。そしてこのフォルムは、清水自身が「茫洋とした」と呼ぶアルミの質感と不可分に結びつき、彼の作品を常に他からはっきりと区別し続けてきた。

 

 《FIGURE-B≫では直線のフォルムと曲線のフォルムの対位法とでもいうべきものが主題となっているが、両者は質感にも大きな違いがある。凹凸を強調した曲線部分に対して直線部分はあくまで滑らかである。日本人の立体造形感覚は「質感のバランス」をとることによって育てられてきたと清水は指摘する。当初、耐久性という観点から屋外彫刻に用いられた栄色は、いまでは彼の作品に欠かせない要素である。現代の抽象彫刻そのものである清水の作品の中に、不思議にも漆器や鳥居など見慣れた造形の感覚がふと顔を覗かせるように思われるのは、フォルムと質感に加え、この朱色のなせるわざであろう。

 

(土田真紀・学芸員)

 

作家別記事一覧:清水九兵衞

清水九兵衞

「FIGURE-B」

 

1986年

 

アルミニウム・塗料

 

400x272x116cm

 

ページID:000055641