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美術館 > 刊行物 > HILL WIND > ひる・うぃんど(vol.41-50) > わくわく美術・たんけんツアー

わくわく美術・たんけんツアー

荒屋鋪 透

 伊藤寿朗氏らによって既に述べられているように、企画展の内容は時代と共に徐々に変化しているようである。作品の保存を何より重視する時代を経て、1970年代になると企画展は学芸員の調査研究の発表の場と位置づけられて、美術史観や美学などの視点から構築されたテーマを核とする企画展を開催することが美術館の使命と考えられるようになった。ところが1980年代後半になると展覧会の鑑賞者を中心に置く参加型の展覧会が各地で企画される傾向が出てきている。展覧会の開催そのものが美術館教育普及活動であることをより鮮明に意識された結果かも知れない。北海道立近代美術館の親と子どもを対象とした企画展として先駆的な役割を担った「親と子どもの美術館」や、言葉による解説をやめて、体感的に理解できるように演出した目黒区美術館の「美術が2倍半位わかりそう逆入門展」など美術館教育からの視点を全面に企画したユニークな企画展、あるいは錯覚を利用した鏡による不思議な体験ができる科学技術館で開催された「エクスプロラトリアム展」(1989年)、博物館にお化け屋敷を再現し、漫画や風俗史など美術以外の様々な視点からアクセスさせて、総合的に妖怪を紹介する川崎市民ギャラリーでの「妖怪展」(1993年)など、切口が明解で作品を見ることを楽しむことに重点を置いた企画展に注目が集まっている。しかも最近の傾向として、美術館で開催される他のかなり多くの企画展に、鑑賞者側からのアクセスに留意している傾向さえ感じられるのである。

 

 「風景、人物、静物などを描いた作品はわかるが抽象画はわからない」とか「きれいに措かれた作品が優れた美術だ」といった言葉をしばしば耳にする。「本物らしく美しく描かれた作品が良いと思う」というような言葉もそうである。しかし、描かれたものが「わかる」ことと美術が「わかる」こととはかなり異なることであり、しかも措かれた形が何であるのか、それすら簡単な問題ではない。そもそも美術をわかろうとする意識に何はともあれ大きな問遭がまず最初に隠されている。美術は、そう簡単に結論がでるようなものではない。美術はどこまでも曖昧で、とらえどころのない代物である。論理的に把握しようとすると、かえってすっとどこかへ本質は逃げて行く厄介な代物である。しかしどこまで追求しても全体を把捉した気にならない美術とつきあいをはじめると、いつまでも面白いものでもある。

 

 私たちは生きる行為のなかで、常に早く結論が出るように努力している傾向がかなり強い。現実を固定概念に頼って判断しているのも、柔軟に対応する知恵であるようにさえ思える。しかし過去に形成した固定概念で判断しようとすると、美術は逃げてしまうものでもある。先入観を持たずに、何はともあれ作品と接することが肝要なのだろう。豊富な知識を伝えることを重視する教養主義、あるいは啓蒙主義的な発想は色あせている。

 

 結論として美術は好きなように見れば良いというものではないが、少なくとも美術の入口は好きなように見ることにあるように思う。ゆっくりと好きなように見ることが、絵を見る楽しさを体験できる入口であり、試行錯誤のような過程を経て、画家のメッセージを受け取ることができるように思う。自分の意思で絵の前で立ち止まりじっくりと絵を見てほしいと願い、多くの人が興味関心を持って絵の前に立つことができるのにはどうすればいいのか、固定概念を前面に出すことなく、素朴な気持ちになって絵の前に立つことがどうすれば可能になるのか、これは困難な課題である。

 

 今回の子どもを対象とした「わくわく美術・たんけんツアー」と遺する小企画展を開催しようとする根源にあるのが、この課題に対するひとつの方法の提示でもある。美術は形式と内容によって成立していることがよく指摘される。形式とは色と形であり、絵を鑑賞する行為は色と形に注目することから始まる。色または形を自らの意思で見てもらうために「○△□をさがそう!」をテーマとした本展が企画されている。

 

 ○△□といった形はほとんどの作品に含まれている。存在しない作品を発見することは容易ではないだろう。○△□を探すことに参加した子どもには名前と期日を記入した「チャレンジャーカード」を手渡し、最初の○△□を発見した子どもには、その形に発見者の名前を登録し、30個以上の○△□を発見した子どもには「たんけん王」のシールを貼ったチャレンジャーカードがもらえるようにした。30個の○△□を発見することは決して難しいことではなく、ある程度発見できた後はその形が何であるのか想像しながらゆっくりと鑑賞してもらい、その後で○△□などに切られた紙に感想など自分の好きな何かを書いて、一番気に入った作品の横に貼って帰るように企画した。 会場には当館のボランティアが子どもたちを待ち受けていた。さりげなく子どもたちに話しかけながらパンフレットを手渡し、子どもたちの活動を見守り、カードを作成したり、感想文を書く紙を渡し、できあがった感想文を子どもの希望する場所に貼る作業など、楽しみながら活動し本展の目的達成のために核となる大きな活躍をしている。 

 

(もりもとたかし・普及課長)

 

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