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美術館 > 刊行物 > HILL WIND > ひる・うぃんど(vol.31-40) > ひる・ういんど 第39号 「三重の子どもたち展」について

「三重の子どもたち展」について

毛利伊知郎

 三重県立美術館では、開館以来毎年2月から3月にかけ「三重の子どもたち展」を開催してきた。今年2月で第10回を迎えたこの展覧会は、三重県内の3歳児から中学生までを対象とし、日頃学校等で行われている創作活動のありのままの姿を紹介することを主な目的としている。また、子どもたちが出品できる全県的な展覧会が従来は開催されていなかったことから、子どもたちが美術館に親しむための一助になればという意味も込めて開館と同時に組織され、早春の恒例行事として広く親しまれるようになった。

 

 子どもたちの創作のありのままを紹介するという主旨から、コンクール等で行われるような作品審査は、美術館では一切行っていない。搬入された作品は原則としてすべて展示されることになる。

 

 展示される作品数は、平面・立体あわせておよそ2000点(注1)。会期中は4室ある企画展示室が、子どもたちの作品ですべて埋め尽くされ、週末には展示室に子どもたちの歓声が響く。

注記

1・展示作品の多くは、規格サイズの画用紙に描かれた描画である。これが、壁面一杯に展示されるため、一つ 一つの作品の印象が弱くなるのは否定  できない。また、授業の中から生まれたそれらは、別頁で触れられる自 由で制約のない創作広場で自主的に描かれる作品と対照的に見える場合も少なくない。

 

 三重県全域から作品を募集し、しかも美術館の展覧会として成り立たせるために、いくつかの工夫が考えられた。一つは、作品募集の方式である。三重県内を27の地域に分け、各地域1・2名の実行委員を依頼している。この地域実行委員の元に、各学校から作品が集められるのである。一方、会場の制約から、各地域毎に子どもたちの数に応じた出品作品数が割り当てられる。実行委員は、作品数が大幅に増えないように、また一つの学校等に偏らないように調整を行い、集まった作品を美術館に搬入する。そして、展示作業も行うのである。

 

 しかし、この方式にも問題があった。展示できる作品数に限りがあるために、地域によっては一つの学校から1点しか出品できないという事態が生じてくる。その時、その1点をどのように選ぶのか。展覧会の主旨が子どもたちのありのままの姿を紹介することにあるといっても、その選択は困難をきわめる。学校の図工や美術の授業で成績のよい作品が選ばれても致しかたないという結果になる(注2)。

2・地域実行委員には、展覧会主旨をいくども説明して大方の理解も得たが、作品選定の問題を解決するのは非常に困難である。

 また、全県的な子どもたちの作品展は本展のみでも、市町村等で子どもたちの作品展が開催されている場合があり、その作品展に出品された、やはり成績のよい作品が選ばれてくるという場合ある。

 

 これは審査を行わないという展覧会の本質に関わる問題である。これを解決するために、「限定地域からの出品」というコーナーを設けて1学級すべての子どもたちの作品を展示したり、あるいは「はがき絵」のコーナーをつくり、学校経由の出品に加えて個人出品も部分的に行われるようになった。

 

 このように、展覧会の本質に関わる問題については、その都度解決の努力を行ってきた。しかし、これにも限界はある。それは、この展覧会の大部分が学校教育の場でつくられた作品によって構成されていることと関係している。現在の美術教育の是非を別にしても、多くの作品が学校経由で出品される(言葉を変えれば、学校に依存した部分が多い)本展の場合、その主旨と現実との狭間で、美術教育や指導のあり方への批判的な視点がどうしても生まれてくる。

 

 とはいえ、学校と全く切り離した形での、こうした展覧会の運営は、これまた困難を極める。ここに、ジレンマがある。しかし、美術館という、学校教育の評価とは無関係の施設が、子どもたちの創作活動発表の場として機能し、学校の美術教育への建設的な批判を何らかの形で行っていくということも、広い意味の美術館教育として無意味ではないと思うのである(注3)。 

 

(もうりいちろう・学芸課長)

 

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3.紙面の関係もあり、ここには「三重の子どもたち展」のごく限られた問題点についてのみ記した。三重県では、1994年度に新文化会館が完成する予定で、本展も将来的には新文化会館で開催される可能性がないわけではない。

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