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美術館 > 刊行物 > HILL WIND > ひる・うぃんど(vol.31-40) > ひる・ういんど 第39号 「JAMM(ジャム)発足に当たって」

 

「JAMM(ジャム)発足に当たって」

村主泰之

 学芸員さんにアポイントを取らないまま出掛けたとしたら、会えることはごくまれであり、幸い話ができても、ものの数分としないうちに電話や来客で中断してしまう。それほど美術館の学芸員さんは多忙であるというのが、私の素直な感想である。

 

 今、美術館は、もはや名画・名作の展示という従来の美術館像に留まらず、総力を挙げた企画展示や美術講演会等、人々の知的要求に応えられる文化を提示し、市民に対して受動的な鑑賞者から能動的な鑑賞者への変身を促す機関へと変貌しつつある。

 

 このような美術館教育をより積極的に進めていこうとするとき、予算的な保障が必要であることは当然であるが、先に挙げたような例からスタッフの増員と、今まで美術館へ足を運んだことがない人たちにも対応できる配慮が必要かと思われる。

 

 残念ながら、明治以来、日本の学校の中での美術教育は、描く・造る活動に偏り、見る・感じる教育はほとんどなされてこなかった。学校を卒業したほとんどの人は、画家や作家にならないのに、学校では結果として、画家や作家を育てる教育を目指し、それも制作の結果を求めることにばかり腐心してきた。

 

 本年度三重県総合教育センターの鑑賞教育を研究とするプロジェクトチームの調査では、小学校低学年では85%もの子供が、絵をかくことやものをつくることが好きと答えているのに、中学生では40%に減少するという事実がある。また、今回の学習指導要領の改訂では、生活科の登場によって小学校低学年では図画工作不要論が出たり、中学校美術は、特別に才能のある子供だけがやればよいという方向が打ち出されてきている。

 

 豊かな心の育成、個を生かす教育、生涯学習の観点など、図画工作・美術教育の役割が重視されてしかるべき時代であるにもかかわらず、少なくとも現状では学校における美術教育はその役割を期待されていないと言ってもよいだろう。

 

 ところで、この秋から、学校週5日制の試みがスタートする。当面、月1回であるが、休日の子供たちの過ごし方として、体育的なことばかりに目が行っているようで文化的な受け皿がどれだけ用意されているのか、いささか心もとない状況がある。

 

 学校では、美術館へも積極的に足を向けさせる働きかけ、美術館側では、やってきた子供たちに、また来たい、もっと見たいと意欲をもたせるための方策の検討がなされなければならない。

 

 このように学校と美術館との連携が今後ますます重視されていく必要があるが、美術館教育を積極的に進めている先進的な美術館でも、美術館側からの一方的な働きかけ(見方を変えれば学校が頑固)となっている悩みがある。

 

 幸い、私が三重県総合教育センターに在職中、美術館の森本氏の協力を得て、全国的にも珍しい鑑賞教育の講座を年1回開設してきた経緯があり、意欲的な何人かの先生方との交流も図ってきたことから、教員の側から美術館にかかわることで、先に述べた美術教育の状況が少しでも改善できればと願い、ボランティアとして、まずはワークシートづくりから始めてみてはと思い立った次第である。

 

 新年早々、趣旨に共感する10数人の先生方が集まり、仮称“ワークシートをつくる会”として、「本画と下絵─宇田荻邨と近代日本画」、続いて「第10回三重の子どもたち展」のワークシートを作成した。

 

 3月には、会の名前を“JAMM(ジョイフル・アートミュージアム・ミエ)研究会”と正式決定し、若干の会則も作って、「ロシア宮廷美術展」のワークシートを手掛けた。

 

 この間、陰里館長さんをはじめ美術館側から終始温かい配慮があった。まだまだ、文字が多い、難しいなど問題も多いが、常設展示作品も手掛けて質の高いワークシートを作っていこうと意欲を湧かせている。また、ワークシートだけでなく、収蔵品や企画展に関するビデオ、スライド、ワークシートなどをセットにして学校でそのまま使えるようなキッドの制作なども活動の内容に加えていきたいと考えている。 “子どもとナイーヴなおとな”、これが私たちの対象とする人たちである。

 

(すぐりやすゆき・前三重県総合教育センター、現四日市市立桜小学校)
2023年9月16日、一部修正

 

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