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美術館 > 刊行物 > HILL WIND > ひる・うぃんど(vol.21-30) > ひる・ういんど 第29号 ヤン・トーロップ「種蒔く人」

館蔵品から

ヤン・トーロップ 1858~1928 「種蒔く人」

1895年 石版画・紙 21.9x33.3㎝

 

TOOROP, Jan // The Sower // 1895 // Lithograph on paper

 

 「種蒔く人」と題されたこの石版画は、謎めいたモティーフで埋め尽くされている。中央には、非常によく似た顔立ちの正面向きと横向きの二人の女性。トーロップの研究家ヘフティングによると前者は<断念>、後者は<熱望>を表し、いずれもモデルはトーロップの妻アニーであるという(『ヤン・トーロップ展』図録、三重県立美術館他、1988年、P.103)彼女たちの向かって左の背景に、光輪をもつ老人として種蒔く人が描かれている。その頭上には輝く三つの星。右手には樹木と二羽の白鳥のいる池がみえる。あたかも空間恐怖の好例のように、画面を埋めるその他のこまごまとしたモティーフを含め、すべてはいかにも意味ありげに思われ、我々に謎解きを迫っているようでもある。

 

 ところが、いざその謎が解き明かされたとしたら、むしろ我々は軽い失望の念を覚えるではなかろうか。たとえば伝統的なキリスト教の絵画が、その意味を信じる人々に支えられてこそ、普遍的な象徴として成立していたとすれば、トーロップを初めとして、19世紀の末に登場した象徴主義の絵画は、そうした従来の象徴を支える基盤がない場所で生み出される、きわめて個人的な世界に思われる。そこで肝心なのは、個々の意味ではなく、むしろ画面に漂う謎めいた雰囲気そのものではなかろうか。この作品でいえば、「種蒔く人」というもともと聖書からとられ、ミレーやゴッホも描いたモティーフを下敷きにして、トーロップがいかにして特異な意味のメカニズムを構成しているか、興味深いのはむしろそのやり方である。

 

(土田真紀・学芸員)

 

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ヤン・トーロップ 1858~1928 「種蒔く人」

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