印象派が現実の世界における色と光を極限まで追求するという、一つ写実主義であったが、結果的には絵画が現実の再現ではなく、現実とは全く異なる別のものであることを証明し、印象主義以降の作家たちは、画家の嗜好によって装飾的に目に見える現実の世界をコピーするといった姿勢ではもう通用しないことに気づき、自己の表現の内容、あるいは形式に腐心せぎるを得なくなり、内容を重視する画家は、目に見える現実世界から、人間の目に見えない内面の世界を追求していった。 シャガールもその一人である。「幻想には、理性がそれを妨害することもできなければまたすべきでもない。それ固有の法則というものがある。」と、幻想には限界がないことを語り、ユダヤの子として生まれ、ロシア人として育った体験、そして妻ベラや、ベラ没後は再婚したヴァヴァとの生活など、自己の緑験を素材として、幻想の世界を実際に表現していった。室内にあるべきものが戸外で、しかも宙を飛び交い、天使らしき子供が笛を吹くといった「枝」に描かれた形象は奇妙であり虚の空間である。しかし、「枝」の画面全体を支配する青は、鮮やかでありながら、何か悲しさをも秘めているようで、シャガールの夢と理想が表出している印象を受ける。感性の段階においては、幻想の世界が逆に現実味を帯びてくることがあることを、この「枝」は物語っている。 (森本孝・学芸員) |
シャガール,マルク(1889-1985) CHAGALL,Marc枝 La Branche 1956-62年 油彩・キャンパス 146.0cmx114.0cm 岡田文化財団寄贈
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