『クロマトポイエマ』は西脇順三郎の英詩に飯田が絵をつけた詩画集で、1972年制作。全22点。ちなみにこの題は西脇自身の命名による。ギリシア語で「色」と「詩」をあらわす単語、すなわちchromaとpoiemaを合成したもので、日本語の接続詞「と」をなにくわぬ顔でギリシア語にみたててすべりこませたかすかなユーモアがいかにも西脇らしい。 ところで、英詩をいったんアルファベットに分解して箇箇のそれに特定の色をわりふり、色と色のネットワークによって言葉がつくりあげるせかいの秩序とはまた別の、宇宙をむすぶみえない連関を提唱したところにこの作品のてがらがある。そこでこの連関なのだけれど、しりとり遊びのように単純に鎖みたいにつながるだけでなく、大地のなかで複雑にからまりあう植物の根も同様に、おもいがけないかたちとか想像もできないむすびつきがありうる世界の多元性が、きわめてかろやかなlight verseとしてかたられるにいたった。しかもかたるひとのすがたはニュートラルな色彩のかげにかくれてもうみわけがたい。つまり飯田の個性はある意味ではここでは意識的に排除された。 ことばと色。世界を映すふたつの装置。それを平面に展開したのが『クロマトポイエマ』だったとすると、彫刻家ならだれだって立体で表現したくなるにちがいない。かくて、「色紐」がうまれたという意味でも飯田の画期となった作品である。 (東俊郎・学芸員) |
1972年・シルクスクリーン・紙 各75.0x55.0cm
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