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美術館 > 刊行物 > HILL WIND > ひる・うぃんど(vol.1-10) > ひる・ういんど 第8号 三重の子どもたち展

三重の子どもたち展

森本 孝

1.「三重の子どもたち展」開催にむけて

 保育・幼稚園や小中学校において、子どもたちが行う創作活動のありのままの姿を鑑賞いただくことを目的として、県下の園児・小中学生の作品約2千点を展観する「三重の子どもたち展」は、今年度で第3回目をむかえる。

 

 2万人には至らぬとも、それに近い観覧者のある、いわば人気のある企画展の一つであり、土曜日の午後や日曜日になると親と子が和やかに観覧し、展示された作品を通じて会話も弾んでいる姿で会場は満ち溢れるようになる。また、PTAをはじめ多くの団体から研修や研究の場として利用いただく機会も少くない。

 

 昭和57年開館の頃県展が高校生から出品できることで、中学生以下の子どもたちを対象とした展覧会を開催することは決定していたが、「どういう形でどのように実施するか」について三重県美術教育研究会(三美研)の役員の方々を中心とする小中学校・養護学校の先生方に館長、担当学芸員を交え熱のこもった討議が再々行われた。

 

 美術館が子どもたちを対象とする企画として、

A.子どもたちの作品を展示する企画展
B.鑑賞の中心を子どもたちとする企画展
C.来館した子どもたちが参加できる企画

の3つが考えられた。

 

 北海道立近代美術館では、小中学生から大人まで誰もが美術鑑賞の楽しさを味わえるようにと、毎年テーマを定め収蔵作品を中心として展示する「子どもと親の美術館」を実施し、子どもが遊びながら学べるコーナーも併設している。兵庫県立近代美術館においては、子どもたちが固定観念にとらわれることなく遊びながら作ることを体験できる「夏休み・こども美術館」を開催している。子どもたちが作った作品を展示する空間をも設けて、「見る・創る・遊ぶ」がテーマとなっている。

 

 このように、BやCの企画を実施することも充分考えられたが、県下の子どもたちの作品を一堂に会する機会がないことを踏まえ、当館では子どもたちに創作発表の場を提供するA案を採用したいと考えた。

 

 Aのほとんどの場合には、公募して優秀作品を選出して展示する形式で行われているが、審査して「上手な作品」や「よい絵」を集めるのではなく、当然ながら何処でも何らかの形で子どもは創作活動を行っているわけで、その作品を美術館に展示して、子どもたちのありのままの姿を広く皆様にご覧いただくことが可能ならばという前提のもとに結論が出されたのであった。

 

 この主旨に添った「三重の子どもたち展」を開催するために、三美研の本部役員と各地域から選出いただいた方々によって「実行委員会」が結成され討議が重ねられていった。

 

 県下の子どもたちの作品を一人一点ずつ展示することが理想であるがとてもできない。企画展示室の規模から4つ切り大の平面作品で2千4百点が限界であることが計算され、共同製作の大きい作品が出品されることも考慮して約2千点が目安点数となり、県下の子どもの数との兼ね合いから約140人に1点の割で各地域の校種別出品予定点数表が作られた。

 

 初めてのことであったから、第1回展開催にあたり、各地域の実行委員を引受けて下さった先生方にはたいへんなご苦労をかけてしまったと思う。各地域の実情に合わせてとは言うものの、当該地域の出品依頼から集荷・返却に至るまでの一切を任され、展覧会の成功は各実行委員である先生方の交友関係と行動力にかかっていた。実行委員は小中学校の先生がほとんであったから、幼稚園、保育園(所)から出品いただくことは随分むつかしかったことと思う。

 

 美術館に「出品したいがどうしたらよいか」という問合せがたくさんあった。「子どもたち展に出品するような作品は本校にはない」という出品拒否にも出合ったという。展覧会が始まってから「知らなかった。出品したかった。」という苦情も少くはなかった。

 

 第2回展の準備を始める第1回実行委員会において、「第1回展不参加校(園)から出品いただくためにどうすればよいか」が中心的な課題となり、保母協会、私立・公立の幼稚園協会などの団体からの代表者や大学の美術教育研究者も実行委員会に入っていただき、より円滑に開催準備を行えるようになった。

 

 また「三重の子どもたち展」の会期中は催し物も数多い。第1回展では講演会と美術教育シンポジウムのみであったが、第2回展では講演会がなくなり、作品鑑賞会と創作広場が加わった。

 

 作品鑑賞会はお父さんお母さんに子どもが絵を描く意味や、子どもの発達段階を知っていただこうという催しであり、創作広場は展示された作品を鑑賞して創作意欲を触発された子どもたちに、大きな紙を用意して好きな絵を描いてもらおうという、子どもたちが参加できる催し物であった。

 

 第3回展もオープンし、2月16、17日に行った創作広場も盛況であった。待ちかまえていたように、子どもたちは思い思いの絵を描き、用意した100枚の全紙と10冊のスケッチフックはまたたく間になくなってしまっていた。

子どもたちのエネルギーにはぴっくりさせられた。

 

 

2.「第3回展」を見て思うこと

 自ら児童画展を開催した経験もあって、子どもの絵に興味と関心を持つ、あるドイツ人が2月22日来館し、「第3回三重の子どもたち展」を見て、特に中学校の作品群の前で「この子どもたちの絵にはファンタジーがない。写実があるのみだ。ドイツの子どもたちは違う。」と言われた。今回の展覧会にはアメリカの子どもたちの作品38点を併陳しているが、これらの作品を見て、色彩が非常に美しい。子どもたちは自由に楽しみながら好きな絵を描いているようだ、と思うのは私だけなのだろうか?改めて会場を見渡せば、物語の絵などの構想画が昨年以上に少くなり、写実を基礎にした題材が非常に多くなったことに、なおさら不安な気特になってくる。

 

 テレビ・マンガの影響を受け、「今の子どもの創造性はひ弱になってきている。」「反応は早いがあきっぽく持続性がない。」とよく言われる。しかし、今日の情報化社会のなかで、子どもたちは以前とは違った形でその社会の成り立ちに見合った感受性を備えてきているはずである。

 

 鑑賞活動でも、子どもたちは大人が勝手に「上手だ」「よい絵だ」と評価した子どもの作品に感動を受けるものでなく、子どもは子どもなりに消極的な受身の鑑賞ではなく、積極的に創作の立場に自分を置き、自分とは異なる作者の表現や表出に共感を示す直観と知恵を持ち合わせていると思う。

 

 本展開催を機会に、子ども自身が存在する絵はどうなのか、ゆっくりと考えていただきたいと思っている。 

 

(もりもと・たかし 学芸員)

 

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「第3回展」会場風景

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創作広場

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講演会での西光寺氏

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