ひる・とおく
ぽくの〈想像のイタリア〉はそんなに多くの要素から構成されていたわけではない。ファブリス・デル・ドンゴとクレリアとジナ・サンセヴェリナの情熱の幾何学、「鉄道員」と「刑事」、モーツァルトの「フイガロの結婚」、ヴァレリーの地中海へのまなざし、フェデリーゴ・モンテフェルトロとアッシジの聖フランチェスコ……それらを織りこむことでわが鍾愛の地イタリアの〈夢〉がつくられていたわけだが、今回イタリア文化会館の招待で全国10美術館の学芸員とともにイタリアの大地を踏み、大きな空の大きな太陽をみることができた。5月24日から6月11日の間にローマ、ナポリ、フィレンツェ、ミラノ、ヴェニスを巡る。美術館・博物館をしらみつぶしに訪れる超々過密スケジュールはむしろ日本的だったが、量は質に転化するということばどおり、ルネサンスと古代ローマ美術に対していいかげん食傷気味になってはじめて、ぼくのなかにある発明があったのは事実だ。けれどそれは現在栽培中。ぼくという日本の土壌にどう反応し、亭々たる大木となるか無惨に枯死するかはこれからのことだろう。そしてもちろんこのことは、ぽくの〈夢〉につながるのだが、それはつかの間の目覚めの後さらに深まったようにも感じられる。新幹線で名古屋へ向う車窓からみえる景色は、これまで一度もみたことがないような、照葉樹林と水蒸気にみちた〈水墨画〉のせかいだった。 (東俊郎・学芸員) |