ヨンキント展の会場をめぐっていると、つい、オランダ滞在時の回想にひたってしまう。そこに描かれているデルフトの運河、ロッテルダムの港、ハーグの西海岸スケヘニヘンなど、筆者にとって曽遊の地、その風景、風物が思い出される。デルフトといえば、すぐにフェルメールの「デルフトの眺望」(1658年ごろ)の画面と市街の真中中にあった広場(マルクト)、広場を挟んで向い合って建っていた市庁舎と新教会の塔が浮んでくる。フェルメールの前記の画面にもその塔が描かれているが、ヨンキントの最初期の作品『デルフトへの運河』の遠景中央の塔もそれであろう。北欧のおそい早春のおだやかなある夕暮どき、広場に面したカフェに腰をおろして眺めた塔は、夕陽を受けてピンク色に輝いていた。下方は四角、上方は八角形のゴシック様式の塔であった。どこでも街の中心は広場であったが、フェルメールは、たしかこの広場に面した建物に住み、彼の家は宿屋兼道具屋を営んていたと伝えられており、彼の結婚式もこの新教会であげられているはずである。ヨンキントの『デルフトヘの運河』はハーグからデルフトヘ通ずるスヒー運河の風景だという。この運河もまたフェルメールの『眺望』のなかの左の水門に達することになる。連想はともかく、ヨンキントのこの画面はオランダのどこにでもある典型的な風景であるが、表現はいささか 旧様式である。だが、そこに見られる自然、大地についてのヴィジョンは、彼の後半のフランスの画面にまで生きつづけているようである。 (陰里鉄郎・館長) |
![]() ヨンキント|デルフトへの運河|1844年 |