ジョアン・カルデイス(第2室)
第2室の残りをしめるカルデイスは、1966年から77年まで、エキーポ・レアリダーというグループで活動していました。このグループは、いわゆるポップ・アートに分類できるものですが、きわめて辛辣で、皮肉のきいたイメージを特徴としていました。
ソロ活動に移ってからの、彼の典型的な作品はウラリータ[セメント入りアスベスト]による衣服を型どった彫刻で、今回も一点展示されています。西欧においては、古代ギリシャ以来、彫刻は何よりも、理想化された人体を規範としてきました。骨格、筋肉、皮膚によって構成されるそうした理想的な人体像に対し、カルデイスの彫刻は、それらを包む衣服だけを、からっぽのまま呈示するのです。ここに古典的な彫刻に対する皮肉なまなざしを読みとることができるでしょう。しかもその素材は、ながらく彫刻に用いられてきた高貴な大理石やブロンズではなく、身分の低い工業材料でしかないウラリータというわけです。ただし、ウラリータが固有の、あえていえば渋い感触をもっていることも事実でしょう。この点、他の作家たちも、用いる素材の質感に対して、華やかではないにせよ、きわめて繊細な選択をしていることに注意しておいてもよいかもしれません。
同じことは、カルデイスの素描にもあてはまります。ぺらぺらした地味なクラフト紙にグラファイト[石墨、黒鉛]を密に塗りこめ、そこに線だけでイメージを刻んでいきます。よく見ると、線はこちらに突きだしていたり、むこうにへこんでいたりします。つまり、サンレオーンとは別の形ですが、やはり、純粋な平面上に素描するというよりは、平面としての紙に対して、彫刻しようとしているのだといえるでしょう。そしてそこに浮かぶイメージは、喧嘩の場面であったりと、静謐でありながら決して重苦しくはなく、ユーモアにも欠けてはいません。
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