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エッシャー (M.C.Escher/1898-1972)
秩序とカオス
1950年 リトグラフ・紙
この作品は、エッシャーのものとして比較的単純な構造からできている。ふつうはシャレたトリックが必ず仕掛けられていて、常識が組み立てた上下、前後左右、裏表の整然とした分類がゆさぶられ、こちらの感覚がねじれてゆくようなめまいをおぼえ、ぼくらはぼくらでこのナンセンスをたのしむ。紙の中の「空間」という虚構を最大限に利用したところにエッシャー作品群の特色が生まれるのだ。
この作品は、といえば、中央の球といくつかの正多面体(?)を合成した物体がネオプラトニズム的な完全性=秩序を、その周囲のすべてに使用されたもの、破壊されたものが不完全=カオスを象徴すると考えるのが順当だろう。
けれどもそれではエッシャー的ひねりがなさすぎて面白くない。そこで、作品とその題を少しネジレの位置においてみよう。するとぼくらの頭脳そのものがエッシャー空間だ。
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