中村岳陵《都会女性職譜 デパートの店員》 山口泰弘
【表紙解説】
中村岳陵(1890~1969)
「都会女性職譜のうちデパートの店員」
1933(昭和8)年
36.8×47.3
紙本着色
作者は、“現代の女性の職業を描こうと思った”という。はじめ二十種以上の職業を構想していたが、あれこれ迷ううちに、結局、七つで終わってしまったという。看護婦・エレベーターガール・女給・奇術師・デパートの店員・レヴユーガール、そしてチンドン屋というのが面白い。
7人の女性の働く舞台は、昭和8年〈1933年〉、関東大震災のあと急速に復興し、近代的な大都市として新たな相貌を現しはじめた東京である。第二次世界大戦までのわずかな雨間を惜しむように、昭和初期、東京を舞台に華やかな都会生活がくりひろげられた。この舞台の裏方として、しかし、先端で活躍する女性たちを描いたのが、このシリーズである。表紙はそのひとつ、「デパートの店員」である。
中村岳陵は、日本画の伝統に近代西洋画の表現を加味して独特の柔らかい線と中間色表現をつくりだした。このシリーズは、そうした岳陵の特質が発揮された代表作のひとつである。
(学芸員 山口泰弘)
友の会だよりno.18, 1988.7.23
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