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美術館 > 刊行物 > 友の会だより > 1995 > 作家訪問4:酔月窯を訪ねて 友の会だより 40号より、1995・12・10

作家訪問〈4〉 「酔月窯を訪ねて」

清水酔月さんの工房、「酔月窯」は萬古焼の本場である四日市北部、垂坂山の閑静な住宅街にある。初夏の一日、私たち会報部員一同は、森本学芸員のご案内で工房訪問の機会を得た。

風のよく通る落ち着いたサロンに入ると、たくさんの作品が迎えてくれた。従来の萬古焼のイメージと違った、モダンで瀟洒な作品に驚かされる。

「やあ、いらっしゃい。」と声をかけて下さる酔月さんは、気さくで飄々とした風情。

「萬古焼の伝統を踏まえることはもちろん大切だけれど、そこに自分なりに新しさを出したいと、いろいろ工夫をしましたよ。」明るく、こともなげに話す酔月さんだが、その陰にどれほどの努力と研鑽があったことだろう。

昭和19年、四日市市に2代目酔月のご子息として生まれ、42年の日展入選を四日市での出発点として、平成5年の3代目酔月襲名を経て今に至るまで、数々の実績を残されている。あくまで四日市の土にこだわり、鉄分が多く細かいという土の性質を生かすため、窯や薪、技法に工夫を続けてこられた。窯は半地上式の穴窯とガス窯、「ガス窯は焼きムラがないのでかえってもの足りないね、」と、わざわざ岡山から赤松の薪を取り寄せて穴窯に用いている。窯と薪の水分が土の質に合い、効果的でおもしろい焼き上がりになるそうだ。前部と後部の湿度差が百倍以上になる穴窯では、各々に合わせた土の配合を工夫しなければならない。酔月さんの作品の、硬質だが冷たくはない微妙な色あいは、このような工夫によって生み出されるのだとつくづく思った。

鉄分の多い細かい土を焼くと、還元作用によっていくつかの色の層に分かれる。酔月さんは、この焼き上がりを生かして模様を彫り出す技法を生み出した。表面ら高圧で細かい砂を吹き付けて彫ることで、地のままの茶色の層、黒色の層、灰色の層と三色を削り出し、飛鶴や散り紅葉、縞などの模様を表すのである。

また、ひっかいたような楔形模様のある作品も、酔月さんの特色の一つである。従来の「とびガンナ」の技法を発展させ、ろくろを回転させながら時計のゼンマイのような弾力性のあるカンナを当てて跡を付け、そこに白い土を埋めて象嵌を施してあるものだ。模様を彫り出した作品とはまた趣が違い、モダンさの中にぬくもりが感じられる。

酔月さんの好意に甘えるまま、工房まで見せていただいた私達は、原料の土の塊からだんだん作品が形となっていく、その各段階を目の辺りにして、圧倒されてしまった。仏師は仏を形作るのではなく、水の中に眠っている仏の姿を彫りあてるのだと聞いたことがある。陶芸家は、土全体のあるべき姿を呼びさましているのではないか、という印象を受けたのだ。

酔月さんの作品作りに欠かせない存在であるご子息は、今、多摩美術大学で勉強中である。

「後を継ぐかどうかは息子にまかせてありますよ。押し付けではいけません。私自身が納得の行く作品を作っていけば、後は息子が決めることです。」と語る酔月さん、伝統はこうして守られ、新しい風を生み出して行くのだと実感した。伝統を踏まえた革新、「温故知新」という言葉をふと思い出した一日であった。

(広瀬ほづみ)

友の会だより 40号より、1995.12.10

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