岸田劉生《麦二三寸》

1920(大正9)年/油彩・キャンバス/37.5×45.5cm
薄い雲の流れる空の下に、田園風景が広がっています。向かって右手の畑には、枯草の間から青々とした麦の新芽が顔をのぞかせています。季節は早春。まだ肌寒さの残る季節ですが、明るい陽射しからは春の訪れも感じられます。
作者の岸田劉生は、1891年に東京・銀座に生まれました。岸田は独学で水彩画を学び始め、数え年18歳のときに画家になる決心をします。ゴッホやマティスに影響を受けた鮮やかな色彩表現、ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、デューラーなど西洋古典絵画の巨匠に学んだ深い精神性と細密な描写、さらには東洋の美術への傾倒と、次々と画風を変え、38年の生涯を駆け抜けた画家でした。
この作品は、1920年2月から3月にかけて、当時住んでいた神奈川の鵠沼で描かれました。あぜ道に立つ赤と黄色の着物を着た少女は、愛娘の麗子です。この絵の中には、穏やかで、かけがえのない時間が流れています。
麦が実り豊かに育つように、わが子もすくすくと育ってほしい。そんな愛情あふれる岸田のまなざしが感じられる作品です。
