表紙の作品解説 増山雪斎《猫図》
1814年
個人蔵
村上敬(三重県立美術館学芸員)
春の草花(ナズナ、エビネなど)のなかにいる猫は、サバトラ柄で、背中を高く丸め、威勢ある姿をしています。作者の増山雪斎(ましやま せっさい、1754-1819)は、伊勢国長島藩(現在の三重県桑名市長島町)の藩主。お殿様でありながら、絵をよく描き、日本美術史に名を残しました。
雪斎作品の特徴として、「写生」があります。とくに、晩年の作品には、その特徴が顕著です。雪斎は、藩主を引退した後、幕府より謹慎を命じられました。原因は、派手な宴会を行ったなど、倹約令に違反したためだと考えられます。謹慎中の雪斎は、身近な生き物の写生に明け暮れ、写生画の技法を磨きました。本作品においても、植物の微妙な形と色、猫の骨格と毛並み、質感の表現を見るに、雪斎が対象をよく観察し、写生を行ったことは明らかです。
対幅の画賛は、雪斎自作の漢詩。大まかな意味は「日中は子を育て暖かい庭で眠る。ネズミを狙いはじめたので、そろそろ夕暮れか。書斎の書物の守りは、君(猫)に任せた。どこにカーペットを広げ、虎がうずくまるのを拝もう」(終日哺児眠暖園、還窺蒼鼠ト黄昏、山房巻軸任君護、安展柔氈拝虎蹲)。ネズミから書物を守ってくれるサバトラ猫を「虎」に例えるのは、雪斎のユーモアです。
※2024年10月12日(土)~12月1日(日)開催の「知っておきたい 三重県の江戸絵画」にて展示予定。
(友の会だより121号、2024年9月30日発行)