表紙の作品解説 なかのひろたか《ぞうくんのおおかぜさんぽ》
28-29頁原画(「こどものとも」601号)
2006年 イラストレーションボード、水彩・インク
宮城県美術館所蔵
橋本三奈(三重県立美術館学芸員)
ぞうくんシリーズ3作目となる本作は、大風で飛ばされるハプニングを乗り越えるストーリーとともに主人公をデザイン化した、なかのひろたか独自のスタイルで描かれています。全体的に淡く優しい色調で彩られ、黒インクで縁取られた輪郭線はかすれたような描き方をすることで、物語を重視したゆるやかな動きを表現しています、
なかのは、桑沢デザイン研究所リビングデザイン科で佐藤忠良のクラスで学ぶ傍ら、アニメ制作会社に勤務しました。卒業してから1年後、自分の絵を描きたいとの思いから、会社を辞め、半年かけて自作絵本の制作に取り組みました。そうして制作されたのが、『ちょうちんあんこう』(1966年 なかのひろたか作・絵「こどものとも」126号)でした。文と絵の両方をなかのが担い、話の展開を考え直してはスケッチを描き直す作業を繰り返しながら絵本づくりを行いました。
『ぞうくんのさんぽ』が出版された60年代、造形や色の選択にデザインの美を取り入れた表現は、絵本の絵として斬新な手法でした。デザイナーやアニメーター時代に培った感覚を生かして制作されたぞうくんシリーズは、いまもなお国内外で愛され続けています。
今回の展覧会では、「こどものとも」を語るに欠かせない名作、そして時代をこえて子供たちに親しまれている絵本の原画を紹介します。絵本のもととなった貴重な原画を通して、奥深い絵本の世界をお楽しみください。
※2023年10月7日(土)~12月10日(日)開催の「宮城県美術館所蔵 絵本原画の世界2022 -23」にて展示予定。
(友の会だより119号、2023年10月10日発行)