古賀春江《煙火》
1927(昭和2)年/油彩・キャンバス/90.9×60.6cm
赤褐色を基調とした画面に、花火や提灯、建物、船、植物などが描かれた幻想的な作品です。作者の古賀春江は、大正から昭和にかけて、ヨーロッパの革新的な芸術の動向に鋭敏に反応し、前衛的な表現を追求した洋画家です。38年の短い生涯を閉じるまでの間に、キュビスム、表現主義、パウル・クレーの影響をうけた作品、シュルレアリスムと大きく画風を展開しました。
古賀と親交のあった文学者の川端康成は、この作品と同じタイトルの作品を画家本人から贈られ、愛蔵していました。2点の《煙火》は、いずれもクレーを思わせる作品で、共通するモチーフも多く、サイズも同じであることから、同時期に前後して描かれた連作と考えられています。文学にも傾倒していた古賀は、川端が所有した作品に詩をつけています。「境界もない真っ黒い夜の空間に パッと咲く花火 昔の如く静かに 物語の王者の如く高貴に華々しく 煙火は萬物を蘇らせる」 と詠んだ詩は、こちらの作品にも通じるところがあるのかもしれません。